第144話

文字数 556文字

「颯来」
 愉香が声を掛ける。振り向いた颯来は一瞬にして怪訝そうな顔を向ける。
「何よその顔は」
「おや? いつもはもっと良い顔してるのに。すみませんねぇ」
「せっかく応援に来たのに……」
「……どっちの?」
 隣には千城もいる。顔を見合わせる千城と愉香。三十分のインターバルの後、男女同時に決勝戦が行われる。
「私も、颯来も、千城君も城西高校」
「そいつは敵だ」
「今はまだ敵じゃないはずだぜ」
「ヘン! どうだか……」
「んもう、何でよ」
「何でってそりゃ……」
 颯来は愉香の視線から逃げようとする。
「俺、今までと違って本気だったんだよなぁ……。颯来、お前もそろそろ本気になったら?」
「俺はいつだって本気出してたよ」
「そうじゃないだろ?」
「……とにかく彦、俺が剣道でギャフンと言わせてやる」
「颯来ってば何一人ムキになってんだろう、ねー」
「ねー」
「チッ」
「……ま、俺はお邪魔みたいだから」
「そんなことないわよ」
「じゃ颯来、後で」
「……おう」

「勝てば……全国大会だね」
「だな」
「自信は?」
「ない……」
 颯来の即答に戸惑う愉香。
「でも、奴に勝てば一番に限りなく近づける」
「うん」
「待ってろよ、愉香」
「いつまで?」
「今日、後十五分位」
「自信ないのに?」
「…………もし、負けても……」
「負けても?」
「愉香には言い訳するよ」
「うん……待ってる」
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