第116話

文字数 751文字

「準決勝、前で勝ちが決まっちまうと大将なんて全然つまらないもんな。でもこの決勝戦は……ここぞって時は颯来、頼んだぜ」
 整列しての礼が終わり着座する千城が、板谷を挟んで颯来に声を掛ける。
「らしくないこと言うな、千城」
「春大にはいなかったッスけどあの一年、只者じゃないッスよ板谷先輩。下手すりゃ白銀のエース張れる」
「それほどか……。春大の時の白銀とは全部が数段上だと思った方がいいな」
「板谷先輩だってあの後から強くなってます」
「……それお前が言っていいのか?」
 聞こえない様に颯来は呟く。
「豊橋……中三の時、俺らの全国大会を阻んだ岩富中の中堅。あいつがここまで強くなってやがったとは」
「マジか、あの一年……」
 独り言のような千城の呟きに反応して思わず颯来も声が出る。
「あん時もかなりの強さだったけど、まだまだ中坊だったくせに」
(お前もだろ……)
 心の中に留める。
「バラ先輩も相当稽古したようだ、颯来」
「あぁ、準決見た、やべーなバラパイセン。三島ってのは……ま、彦には大きなお世話か」
「そう言えば千城、準決以外の白銀の試合観たか?」
 板谷は何かを思い出したようだ。
「いいえ」
「準決、三島は引き分けだけど、あれが本当の力だと思うなよ」

「止め」
 主審の合図が掛かる、それは先鋒戦の終わり意味している。
「引き分け」
 高宮は予想外の引き分けであった。この一年、主将として先鋒として頼りにしてきたし、それに応えてきた高宮。颯来たちは決勝までが出来過ぎていたことに気付かされた。
「高宮が引き分けとは……」
 試合から目を離していた板谷は驚く。それもあってか千城は面紐を結びながら、途切れてしまった話の答えを返す。
「もちろん、油断はしませんよ」
 次鋒戦が始まった千城は、身体をほぐすために立ち上がる。
「面白くなってきた……」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み