第81話

文字数 806文字

「来生、遠野さんにちゃんと言った方がいいと思うよ」
「そうね、はっきりしてもらわないと、私も……周りもいい迷惑よ、ね?」
 春原と宇佐美は望未をたしなめるように言い寄る。
「全くだ。遠野さん、きっと待ってると思うよ」
「それは……どうかな」
 望未は遠くを見つめた。

「『それは……どうかな』だって」
「いい加減にしてほしいわね」
 望未の真似をする春原に笑いながら答える宇佐美。二人は望未を置いて歩き出していた。
「おーい……」
 恥ずかしい望未、小さく一人突っ込みを入れると後を追う。すかさず春原が次の矢を放つ。
「あれ? かっこつけは終わった?」
「……もう言うな……ごめん」
「分かればよろしい」
 宇佐美の笑顔がグッドエンディングを物語っていた。


***


 今回の件は愉香も颯来も知らなかった。遥も愉香に相談しなかったし、望未も颯来に言わなかった。言ったところで違う学校同士のこと、どれほど力になれたか分からない。
 それに二人とも、なんて相談してよいものやら想いが及ばなかったというのが正直なところでもあった。



 あの日颯来は、遥に告げた。
「今まではっきりしなくてごめん。俺、ホント遥ちゃんのこと好きで……可愛くって、優しくって、それに……。それに何て言うか、守ってあげたいって言うか……」
「……うん」
「でも、それは姉ちゃんのことがあって、だからかもしれなくって……。もしかしたら本当は……」
「……」
 遥も颯来の姉のことは聞いたことがある。

 颯来は姉のこと、そして自分が剣道を始めた時の話をした。
「俺、自分のためなんだ。きっと遥ちゃんにだって……」
「ごめんね、颯来君……辛い思いさせちゃって」
「いや、だから……その……」
「分かってた、多分ずっと前から。でも私も颯来君に甘えちゃって……だから颯来君を好きになっちゃって……」
「そんなこと、ない」
「颯来君優しいから……きっと分かっててくれてたんだよね、私と……多分颯来君の本当の気持ち……」
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