第77話

文字数 661文字

 この間、二度ほど告白を受けた。
「ごめんなさい」
 ほとんど知らない男子であった。男の人に呼び出されるのも怖かった。告白と分かると何故か少しホッとする自分がいた。しかしその後、返事を迫られること、断ることに怯えた。
 答えを伝えるその声は震えていた。
『あーあ、振られちまった』『ちぇ、何だよチクショー』『お高くとまりやがって』そんな風に思っているのでは、という勝手な想像が遥を襲う。
(ごめんなさい、ごめんなさい)
 遥の心の中は必死に謝って許しを請う。
「そっか……急に呼び出して悪かったね」
 そう言われて、頭を少しだけ上げて相手を見ると、立ち去る後ろ姿に気持ちが楽になる。


 二度目はサッカー部の日下部。最近やたら遥の周りをうろついている。授業の合間、部活のグラウンド、『ノート貸して』『この本読んでみてよ』あれこれ遥に絡む。
 ここのところ遥も、他の女子たちとの噂話になるべく参加しているので、日下部が女子の間で少しばかり人気があることも知っていた。
「ごめんなさい」
 同じ口跡で、同じように頭を深く下げる。
「どうして?」
「え?」
(『どうして』って言われても……)
 返答に困る遥。
「何で俺とは付き合えないの?」
 グイグイ押し込んでくる日下部に、負けそうになる気持ちを遥は堪えて答える。
「好きな……人がいます」
「あれ? 来生と別れてもう好きな人がいるんだ。あ、好きな人ができて来生と別れたのか」
「え? あ、違う……」
「チェッ、何だよ意外と軽いんだな」
 遥の否定の言葉はもはや聞く耳を待たず、背を向けた日下部は言葉だけ残して去って行く。
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