第57話 カセットテープB面【23】

文字数 708文字

【23】

 しかし、そんな海軍の中にあって、特攻を拒否して上層部とやりあった士官もおったのですよ。
 そして、自ら率いる飛行隊を特攻部隊ではなく夜間戦闘機部隊として認めさせ、沖縄戦で大きな戦果を挙げた例もあったのです。
 沖縄戦の際、鹿児島の鹿屋(かのや)基地から夜間出撃していた我々の攻撃飛行隊は、その夜戦部隊と何度か鉢合わせしたことがあるので知っているのです。
 それは、終戦まで特攻を行わなかった海軍唯一の戦闘機部隊だったのです。
 その飛行隊長は私とそう歳の違わん人でしたが、すでに少佐でしたから優秀な人だったのですな。
 軍人が軍の命令に異を唱えるというのは、軍法会議にかけられてもおかしくないことですから、それにも関わらず自分の信念を貫き通した士官がいるのだと知って、世の中にはとうてい(かな)わないような偉い人がいるもんじゃなぁとつくづく感心しましたなぁ。
 この少佐やS中尉のような人たちが軍の上層部にいたなら、戦争の行方も変わっていたのかもしれませんし、特攻によって若い人たちが無残に死んでいくこともなかったのかもしれません……』

『先ほどのお話になったように、明治生まれの上層部の命令によって、大正生まれの若い方々が亡くなっていったのですよね』

『その通りです……。
 明治生まれのお偉いさん方は、日清日露の海戦で勝利した海軍のあり方というか、呪縛というか、そうしたものに縛られていたような気がしますな。
 大和だって武蔵だって、制空権があるうちに海戦に参加させていれば有効な使い道があったのに、温存した挙句、重油も足りない、制空権どころか制海権もない、そんなにっちもさっちもいかないような状況で出撃させて無為に失ってしまったのです。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み