第13話 カセットテープA面【7】

文字数 972文字

【7】

『陸軍さんは、厳しかったかもしれませんが、海軍は、そういう点は緩いんでしょうなぁ。
 零戦だって、我々は普段ゼロ戦と呼んどりましたよ。
 だいいち、一式陸攻の尾翼の部隊記号だって、ZとかTとかKとかFとかアルファベットで書かれておりましたしねぇ……。
 まあ、ペアといえば、中攻乗りにとって同じ釜の飯を食った以上の、お互いの命を預け合った義兄弟のようなものでしたよ。今でも生き残ったペアとは連絡を取り合っておりますわ』

『ペアですか……、なんだかいい言葉ですね。
 戦時中の日本では英語は一切禁止されているのかと思っていました』

『まあ、海軍が特殊だったのかもしれませんがね。
 これから、そのペアとの体験をお話したいと思っておるのですが、よろしいですか?』

『はい、ぜひお願いします』

『では、一式陸攻の説明を続けますよ。
 機体の最後尾が、これまた全面ガラスになっておるでしょう。
 ここは尾部(びぶ)銃座といいまして、二十ミリ旋回機関銃が据えつけられとります。
 後方から迫る敵機には、これで応戦するのです。
 陸攻のような速度の遅い機には、敵戦闘機がぴったりと後ろにつくんですわ。
 で、尾部銃座にいるとですな、敵機が物凄いスピードでこちらに迫りながら機関銃を撃ってくる姿が眼前にあるわけです。
 こちらも応戦しますが、我が機は退避行動で横滑り飛行しとるもんで、なかなか敵機に弾は当たらんのです。この恐怖たるや想像を絶します。
 尾部銃座の射撃手は損耗率が高いのですわ。敵機の銃撃をもろに受けますし、対空砲火を受けて、この銃座の風防全部が吹き飛ばされることもあるのです』

『損耗率が高いとは?……』

『端的にいいますと、戦死してしまうということですわ。
 ですから、尾部銃座手は新兵が補充されることが多いのです。
 で、私らは、その新兵に「この二十ミリ機関銃が当たれば敵機などひとたまりもないぞ」と言ってやるしかないのですわ。
 新兵は実戦経験がなく、ある意味怖いもの知らずですから、その一言で勇躍奮い立つわけです。
 しかし、実際は、敵機はまず先に尾部銃座を潰そうとやっきになって機銃で狙ってくるのです……』

 ――ガタッ、ズズッと音がした。しゃべり疲れた祖父がお茶を啜ったらしい。
 話すにつれ、祖父の口調がきびきびとしだした。どうやら気持ちは当時の海軍飛行曹長になっているようだ。
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