第67話 カセットテープB面【33】

文字数 782文字

【33】

 昭和三十九年十月、私は開業したばかりの新幹線に乗りました。
 その翌年昭和四十年、国内線に就役したばかりのYS-11に乗りました。
 新幹線に乗ったときも感動しましたが、YSのときは、機体を見ただけで不覚にも涙が流れて止まりませんでねぇ……、はじめて見たYSはね、大きさも形も一式陸攻によく似ていたのですわ。
 新幹線もYSも、零戦や一式陸攻を作り上げた日本の技術の粋が生かされたものです。
 あの頃、我々も命を賭けていましたが、技術者達も日本のために身を削り命を賭けていたと思います。
 だからこそ、経済力も軍事力も世界一の大国と、いっときであれ日本は互角に戦えたのだと思います。
 その技術が今、平和のために生かされている、その技術の結晶が世界から認められていると思っただけで、胸が詰まりましてねぇ……。
 自分も、今手がけている事業で日本の将来に貢献せねばと心に誓ったものです。
 余談ですがね、初孫は昭和三十九年生まれでして、名前は、新一というのですがね、実はその年に開業した新幹線から取っているのですよ。
 「新幹線は世界一」で新一ですわ。
 息子がそう言っとりました。
 そのあと、孝一、順一と続くんですがね、なんで息子が、次男にも三男にも一の字をつけたのかは分かりません。
 別に私がとやかく言ったわけでもないんですがねぇ……。
 あなた、なんでも十年はやらんとものになりませんよ。
 今は好かん合わんと思っていても、後になってみれば無駄なことはなかったと気づきます。
 渦中にいれば無我夢中です。
 人はね、ある日突然目覚めるものなんです』

 ――テープの中では記者が何度も鼻水を啜りあげていた。

〈じいちゃん……、三十年も経ってからそんなこと聞かせるなんて、反則だよ……。まったく、反則だよ……〉

 ――私も、「うっ」と嗚咽が漏れた途端に、こらえていた涙が溢れ出てしまった。
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