第92話 三沢【9】

文字数 849文字

【9】

「ジュン、おまえのジイさん……、もしかして、剣作戦の特攻隊員だったのか?」

「ああ、そうらしい……。
 ジイさんは、インタビューの最後にその話を少ししただけで、そのままテープが終った。
 でも、たしかに終戦直前に特攻隊員として三沢に来たと言っていた。
 で、ネットでいろいろ調べて剣号作戦のことを知ったんだがな、知ったら、その三沢に行きたくなった。この目で三沢基地を見てみたくなったんだ……」

「おい、おい、おい、マジか? 俺りゃ、鳥肌が立ってきたぞ。
 おまえのジイさんも、俺も、そしておまえまで、なんだってこの三沢に引き寄せられて来たんだ?
 いったい、なんの縁なんだ? 
 なんだか、俺、おまえのじいさんが他人のようには思えなくなってきたぞ」

「ああ、そうだな……、まさしく〈一式からF-1へ〉だ。
 じいさんの口から三沢って言葉が出たとき、まっさきにアオの顔が思い浮かんだが、そのアオが、現代の陸上攻撃機に乗ってたなんてな……、おまえの話を聞いて俺が驚いたよ。
 まったく奇遇というか、巡り合わせというか……」

「くっそ! 俺がこんなザマじゃなかったら、おまえをどこへでも案内してやるのにな……。
 あのな、ジュン、おまえ、これからまっすぐ、三沢航空科学館へ行け。
 来た道をまっすぐ戻れば十五分くらいで着く」

「そこに行けば、何がある?」

「三沢基地が海軍の基地だった頃の資料があるはずだ。
 それから、ゼロ戦のレプリカが展示してある。
 F-1の実機も展示してある。
 で、一式も展示してある」

「えっ! 一式も? それ本当か? 
 一式陸攻が復元されているのは、河口湖自動車博物館だけじゃないのか?」

「ハハ、驚いたか? 
 一式は一式でも陸軍の一式だ。
 一式双発高等練習機ってやつだ。
 訓練中に十和田湖に墜落した機体が、七十年ぶりに引き揚げられて、それがそのまま展示されてるんだ。
 なかなかの見ものだぞ。
 一式練習機は一式陸攻より小型だが、双発で姿かたちが似ているから雰囲気はつかめるはずだ」

「分かった。すぐに行ってみる」
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