第51話 カセットテープB面【17】

文字数 1,157文字

【17】

 ――私も驚いたが、面前の記者の方はもっと驚いただろう。

『戦後アメリカは、日本の戦争責任を弾劾しました。
 当時の日本の指導者たちは「平和に対する罪」「人道に対する罪」「共同謀議」なる罪を一方的に押しつけれら起訴されました。
 私が、「一方的に押しつけられた」と言う理由は、それらの罪状が国際法には元来存在しないものだからです。
 連合国側は、彼らが戦後勝手にこしらえた事後法で日本を裁いたのです。
 国際法では国家は交戦権を認められています。
 また宣戦布告のない戦争や紛争であっても、戦時国際法は適用されます。
 アメリカは戦後、「日本が宣戦布告せず卑怯な騙し討ちを行った。また、中国では重慶爆撃など無差別爆撃を行った。だから、我々の日本に対する無差別爆撃も原爆投下も正当化されるのだ」という理屈を押し通してきました。
 東京裁判ではアメリカが行った非人道的な戦争行為は不問のまま、日本だけがそれを弾劾されたのです。
 戦闘員ではない民間人と民間施設に対する無差別爆撃は、戦時国際法で禁止されております。
 アメリカが日本の都市に行ったあの無差別爆撃は、間違いなく戦争犯罪なのですよ。
 日本の県庁所在地で空襲を受けなかったのは、わずか九ヶ所だけです。
 それ以外の都市は、あらかたが焼野原になりました。
 焼夷弾とは火災を発生させるための爆弾です。
 市街地に絨毯爆撃し、木と紙でできた日本家屋を焼き尽くすためにアメリカが開発した大量殺傷兵器です。
 昭和二十年三月十日の東京大空襲では一夜にして十万人が死に、百万人が罹災したそうです。
 おそらく第二次世界大戦全体を見回しても、一夜にしてそれほどの民間人の犠牲者を出した、しかも一方的な攻撃というのは例がないと思います。
 私は、焼夷弾無差別爆撃と原爆投下は、アメリカが行った史上最大で最悪の虐殺行為だと今でも思っております。
 たしかに、日本も重慶爆撃では無差別爆撃を行いました。
 私が参加した成都爆撃でも結果民間施設を爆撃することになってしまいました。
 それについては私にも忸怩たる思いがあります。
 日本も私も非は認めねばなりません。
 しかし、だからと言って、アメリカの非が正当化される訳がありません! 
 アメリカのしたことが帳消しになるはずがありません! 
 彼らはキリスト教を信じておるのでしょう? 
 彼らがやったことをキリストさんは認めるのでしょうか?!』 

 ――祖父は大きく息を継いだ。

『あ、いや、申し訳ない。年甲斐もなく取り乱しました……』

 ――まさか祖父の口からキリストさんという言葉が飛び出すとは思わなかった。
 〈汝らの中、罪なき者まず石を(なげう)て、か……。

 ジイちゃんの言う通りだよ。
 キリストさんは罪のない者しか裁けない、しかし罪のない者などいない、って言ってるよ。
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