第110話 三沢【27】

文字数 1,089文字

【27】

 F-1は、その派生形で練習機であったT-2と、ブルーインパルス仕様機と、退役記念塗装機の三機が並んでいた。
 基本的なスタイルはさっき見たF-4に似ていたが、一回り小ぶりで更にスマートな印象で、退役記念塗装機は、実際に三沢基地に配属されていた迷彩塗装のF-1に、赤い稲妻ラインなどを書き加えた機体だった。

「おお、これは……」

 青地の話によれば、その緑の濃淡と茶と下面のグレーのグラデーションを空自では森林迷彩というのだそうだが、私は、その迷彩塗装を実際に目の当たりにして思わず声を上げてしまった。

 一式陸攻の写真を見ると、すべてと言ってもいいほど単色塗装で、CGの再現グラフィックでは日本機特有の暗緑色なのだが、祖父の模型の一式はなぜか緑と茶の迷彩塗装だったのだ。
 当初どんな資料にもそんな塗装の写真は見られなかったので、祖父の模型の真偽を不審に思っていたのだが、プラモデル愛好家がブログにアップしている一式陸攻のプラモには迷彩塗装のものが散見された。
 詳しく調べていくうちに、それは当時「支那事変迷彩」と呼ばれたもので、高雄航空隊に配備され中国戦線に投入されたばかりの頃の一式陸攻の標準塗装であることが分かった。
 それは祖父が初めて搭乗した一式の塗装だったのだ。

 支那事変塗装の一式陸攻を彷彿とさせるF-1の迷彩塗装を眼前にして、機体のスタイルはまったく違うけれど、私はそこに祖父が乗機した一式陸攻を見たような気がした。
 そのF-1の尾翼には、青地から聞かされた第三航空団第三飛行隊を表す「(かぶと)武者マーク」がついていた。
 青地がその部隊マークにただならぬ思い入れと誇りを持っていることは、彼の口ぶりから容易に覗えた。
 機首に目をやると、おそらく特別塗装なのであろう、片面には兜に刀と弓矢の絵に「疾風迅雷」の文字が、片面には「精鋭無比」の文字が描かれていた。

〈搭乗員の心意気ってのは、時代も世代も越えて受け継がれていくみたいだな……〉

 その文字の中に、祖父の戦争体験が凝縮されているかのように思えた。

 機体の側面に向かうと、エンジンに吸気するためのエアインテークという部分にペイントされた英語が目についた。

"3rd T.F.SQUADRON F-1 1977-2001"

〈スコードロンは飛行隊だろ……、T・Fってのはなんだ? ああ、タクティカル・ファイターか。ってことは、第三戦術戦闘飛行隊ってことだな。で……、アオの飛行隊のF-1は、二十四年間就役したってことか……〉

 そんなことを考えているうちに、私の脳裏に"Brave-1"という言葉がなぜかふっとが思い浮かんだ。
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