第44話 カセットテープB面【10】

文字数 1,149文字

【10】

『なるほど……。では、Nさんはその後?……』

『十二月七日、二度目の出撃の際です……。
 あのときは、分隊士のS中尉が機長として搭乗しておりましたので、私はその補佐役でした。
 たしか六機で出撃して二機が未帰還でしたかなぁ。
 ようやく帰還した数機もかなりの損傷を受けておりました。
 十一月二日以降、陸海軍共同で度重なる爆撃を行っているのですから、敵も対策を講じて我々を待ち構えているわけですよ。
 二回目の攻撃は、偶然にもB-29がまさに日本空襲のために出撃準備してるところで、基地は昼間のように明るくて、滑走路にはB-29が充満しているのが遠目にも見えました。
 敵の電探による早期警戒で我々の機影もかなり早くから把握されておったようで、基地上空に突入する直前から物凄い対空砲火を受けておりました。
 我々一番機は、それでも必死の思いで六〇㎏爆弾全弾投下して離脱したのですが、機が反転したところで、グワンと後部右側方から物凄い衝撃を受け、機体が大きく揺さぶられました。
 機内には火薬の臭いと鉄が焦げる臭いが充満し、被弾したことがすぐに分かりました。
 また、機体の後方からガンガン・ガリガリと間断なく衝撃が伝わり、敵機の機銃が撃ち込まれていることが分かりました。
 側方機銃を兼務していた電信員が「後方に敵機! メザシです!」と叫びましたが、尾部銃座からの敵機発見のブザー音がありません。
 尾部銃座手は敵機を発見すると「ブッ」「ブー」とブザーを鳴らして操縦員に合図する決まりなのですが、それがまったく聞こえませんのですわ。
 嫌な予感がして尾部に目をやると、隔壁扉が吹き飛んでいて機体の穴から夜空が見えており、迫り来る真っ黒なP-38の姿がそこにありました。
 「主操、雲に入れ! 雲だ!」私はありったけの声で叫びました。
 手負いの我が機が高速のP-38から逃げ切るためには雲の中に隠れるしかありません。
 ちょうどその頃黒雲が出はじめていたのです。
 私は雲の中でも機位を失わない自信がありました。
 雲の中でも回避機動をして、どうやら敵機をやりすごすことができたとホッとして雲の切れ間から出た、その出会い頭、我々のすぐ上空にP-38の機影を認めました。
 「上方にメザシです!」上部機銃兼務の整備員のその声に、「主操、動力降下! 回避、回避!」私は思わず叫んでいました。
 機体は墜落するかのように急降下し、もはやこれまでかと思いましたが、海面ぎりぎりで機首が上がりました。
 こちらは手負いの機体ですから、追いすがるP-38の機銃をしこたま受けました。
 しかし機銃を撃ち尽くしたのか敵機は反転していきました。
 搭乗員のほとんどが負傷しました。
 側方機銃兼務の電信員は脚を撃ち抜かれ、その出血が床に広がっていました。
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