第95話 三沢【12】

文字数 767文字

【12】
 
 墜落時の影響からか機首と左側面の外板は破損が激しいものの、胴体や主翼、尾翼、垂直尾翼のフレームには歪みもなくしっかりしており、当時の設計技術や組み立て技術の高さが窺われた。
 全ジュラルミン製で双発のその機体は、たしかに写真で見た一式陸攻を彷彿とさせるものだった。
 特に機首から風防にかけてのラインがよく似ているような気がした。

 機首の点検孔が開いていたので首を伸ばして内部を覗き込むと、すべての装備は取り払われているものの、操縦席や胴体のフレーム構造を目の当たりにして、当時の軍用機の雰囲気が感じとることができ、機体は違えど、職業軍人であった祖父の命がけの職場を見たような気がした――。

 キ-54の隣には、海軍のエースパイロットであった坂井三郎の搭乗機を模した零戦二一型が展示してあった。
 映画撮影に使われたものだけあって精巧なレプリカだったが、隣に並ぶ昭和十八年当時の実機と比べると、やはり質感的に見劣りがした。

〈おっ! 坂井三郎っていえば、たしか、高雄空だったよな……〉

 私はショルダーバックから、調査ノートを取り出した。私は祖父の話を聞いてから、いろいろと調べ上げたことをノートにまとめていた。

 台湾の高雄航空隊のことを調べていて分かったことだが、零戦の代表的なエースである坂井は開戦当時、高雄航空隊に所属していた。
 彼は、昭和十五年十月、正式採用された零戦が実戦配備されるにあたって高雄航空隊の配属となり、昭和十六年七月・八月の成都攻撃に参加している。祖父が一式陸攻で初出撃したのが八月の成都攻撃だったと言っていたから、祖父の搭乗していた一式は、坂井三郎の零戦に直援されていたのだ。

 そんなことを思いながら、眼前の零戦とその奥に控えるキ-54を眺めていると、祖父の話が自分の中で次第に実感を帯びていく気がした――。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み