第20話

文字数 1,008文字

 私は
「楽しいか楽しくないかと聞かれればまぁ楽しいのではないでしょうか。私にとってトラブルは厳禁ですから」
「はぁ。確かにそれはそうでございますね。無用なトラブルは避けておきたいですものね」
「そうなんです。私にとって何もない平凡な普通の波風の立たない暮らしが一番楽なんです」
 私は無理矢理微笑んだ。
「私が初めて街に出て感じたことがあるのです。街の景色や仲間たちは私にとっては刺激で、飽きるなんて事はなかったのですが、ふと歩いている人間たちの顔を眺めてみるとのっぺらぼうのように見えました。どの顔も表情があまり見えなかったのです。いろんな人の会話を盗み聞きしても、楽しそうにしているだけ。薄っぺらい顔が張り付いてましたわ。みんな気をつかって生きているというのがよくわかりました。人間関係ってそれほど大事なことなんですね」
「人間関係ってめんどくさいものです」
「でもそれって人間関係でトラブっていませんか?」
「えっ、どういう事ですか?トラブルなく過ごすことがベストじゃないですか」
「いえ、私から見れば少し違和感がありますよ。だってあなた達は人間でしょ。人間関係がこじれないようにみんなが少しずつストレスを抱えながら生きてるなんて不自然じゃありませんか。自分も、自分自身も人間であるってことを忘れているんじゃないでしょうか。他人との軋轢を避けるために自分という人間の対応に困ってるんでしょ。自分との人間関係が拗れてませんか?」
 私はドクっと胸が打たれるのを感じた。
 確かに私は私と自分の人間関係なんて考えてもいなかった。私の本音と自分の生き方はイコールで結ばれていなければいけないはずなのに、なぜかそこに斜線が入っていた。いつも私と自分の間には薄いフィルターがかけられ本当の自分の輪郭線をぼかしていた。でも、この社会は上辺だけ取り繕って成立していることも確かな事だ。確かに一皮むけばそこには怖くて震えが止まらない子供のような人間が丸裸でいるのだ。それを隠しながら皆んな少しの偽りを持ってその恐怖と嫌悪と戦っている。
「あなたは孤独は怖くないんですか?周りの人から仲間外れにされたり、認められず無視されたり蔑まされたりそんなのは恐ろしくないんですか。自分の存在意義がないものになる事はどうなんですか」
「自分の存在意義なんているのでしょうか?そんなに他人に認められなきゃいけないのでしょうか」
 その女性は相槌を打つかのように答えた。
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