第24話

文字数 1,020文字

 バンドを組んで憧れのロックスターになる事を夢見ていたが、俺の周りにはそんな事を本気で思う友達は一人もいなかった。好きなものや価値観が合う友達はいたが、こと音楽となればほとんど聞かないか、聞いても流行りの音楽を少しかじる程度だった。完璧に分かり合える友達がいない寂しさを抱えながらも俺は高校の3年間を不満も少なくダラダラと過ごした。
 勉強らしい勉強はした覚えがない。いつも適当にその場凌ぎのノートの確認だけで成績を残せてきた。だから、必死で受験勉強をする同級生たちを不思議な思いで見下していた。当然、大学は適当な、さほど有名でもない無難な大学を選んだ。大した受験勉強もしなくてもよい、楽に入られる大学が俺の受験の条件だった。とにかく、俺は努力らしいことは何一つすることなく、10代の大半を終わらせてきた。
 そんな俺でも大学に入れば何かやらなければと思った。というより、今まで何も夢中になれることがなかった、ただ時間を浪費するだけの虚無な生活をやめられると思っていた。
 その焦りと期待を込めて軽音楽部の部室を訪れた。
 埃っぽい太陽光のほとんど入ってこない薄暗い部室には、バラバラにされたドラムセットとシンコーミュージックから出版されていた何冊かの洋楽ロックの楽譜、壊れたエレキギターやアンプが乱雑に置かれていた。
 忘れ去られた存在。
 俺はこの光景に死体置き場のイメージが重なった。基本的に軽音楽部の部室はそれぞれの部員が組んだバンドの荷物置き場となっている。だから、荷物を置きにくる以外、人の出入りはあまりない。それぞれのバンドは、それぞれが練習スタジオを予約し、各自で練習をする。軽音楽部が部活動らしいことをするのは文化祭ぐらいだった。その文化祭も一般公募で出てくるバンドもいて、どれが軽音楽部のバンドか判別がつかないほどだった。対バンイベントもそれぞれが適当にライブハウスでブッキングしてもらう。
 埃とカビの匂いを感じながら、有名無実な軽音楽部の部室に俺は一人で佇んでいた。
 落胆と共に誰もいない部室を後にしようと振り向いた時、入り口に背の低い男が立っているのが見えた。その男は華奢で今にも折れてしまいそうな足の先にはその細さには似合わない大きな靴を履いている。ダラリとだらしなく着ているシャツは明らかなオーバーサイズで肩口が襟から出そうになっていた。その顔は少女漫画から抜き出てきたかのように美しく、大きな瞳と長いまつ毛が印象的だった。
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