第17話

文字数 983文字

「お家は近くですの?」
その女性は何気ない挨拶のように聞いてきた。
「いえ、実家がこの近所の文房具屋なんです」
「あら、じゃ、今はこの辺りにはお住みではないのですね」
その女性は少し驚いたように聞いてきた。
「そうですね。今は東京に住んでますから」
「あら、そう。すごく馴染んでいたからてっきり地元の人かと」
その女性は素っ気なく答えた。
「まぁ、地元といえばそうですが、ここから離れてずいぶん経ちますから。そちらは地元の方ですか?」
そのまま何も言わなければ長い沈黙が続きそうで、私は特に興味もないのにその女性の素性に関わる質問を返してみた。
 女性は私の声が届かなかったのか、目線も動かさず子供達を眺めている。その眼差しは優しく、穏やかではあったがどこか鋭い一直線の視線を投げかけていた。
 私の目論見は見事に外れ、暫し長い沈黙が訪れてしまった。私の投げかけた質問はフワフワと空中を浮かび行き場をなくしながらゆっくりと消えていった。
 私たち二人はどこを見るわけでもなくボンヤリと全体を眺めていた。
 いつのまにか、亜美と美少年は二人で小さな砂場に小高い丘を作っていた。
「子供はすぐに誰でも仲良くなれるのね」
その女性はまた唐突に話しかけてきた。
「そうですね。子供の特権なんですかね」
私はありきたりの答えしか用意できない自分の頭とボキャブラリーに少し恥ずかしさを感じた。
「あなたのお子さんって、お父さん似ですかね。あなたにはあまり似てらっしゃらない」
「え?」
 私は突然の質問に少し戸惑った。
 私は亜美の顔を改めて注意深く見てみた。
 亜美の目は大きな瞳でまつげは長い。これは兄の目を受け継いだ。兄も同じような目を持っていて、小さい頃は女の子と見間違われるくらいだったらしい。鼻筋は特に通っているというわけではないが口元は人なつこい愛嬌がある。彼女は肉親の私から見てもかなり美少女の部類に入る。
 私は兄とは違い奥二重の少しつり上がった目をしている。母親がそうだ。そのおかげで少しキツく涼しげな印象を持たれることが多い。
「あぁ、あの子は私の兄の子供なんです。姪っ子です」
「あら、そうなんですの。通りで。それにしても可愛らしい女の子ですね」
 私の子ではないが、血は繋がっている、少しだけ距離を感じている亜美を褒められた私は少し複雑な気持ちになった。自分に子供ができたらどんな気持ちになるのだろう。
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