第14話

文字数 1,155文字

それから7年間は特に記すこともない。毎日同じ時間に同じ場所で同じ決められた書類を整理するだけの単純なルーティーンが繰り返されるばかりだった。気がつけば私は三十路の手前になっていた。
この地を離れてもう10年になる。私は少し疲れていたのかもしれない。真面目だけが取り柄の私は今の職場に勤めて有給を取るといえば冠婚葬祭以外はなかった。無遅刻無欠勤、いつしかこれが私の存在意義となっていた。
私は有給を取る事は働いている同僚達に対して少しの罪悪感を持っていた。労働者として当然の権利だとは分かってはいた。しかし、いざ行動に移すとなるとなかなか踏ん切りがつかないでいた。会社が特別ブラックというわけでもなく、職場環境の同調圧力というものでもない。強いていうならば、私の無駄で無意味な責任感だろう。
 このことをやんわりと同僚に話すと決まって「あなたは頑張り屋さんだからね」や「助かってますが、たまには休んでくださいね」などと適当で心のこもっていない返事が薄っぺらい愛想笑いと一緒に返ってくる。中学生のあの頃と同じだ。
 しかし、実際のところ二十日ある有給をとったとしても私にはやることがない。特に没頭している趣味があるわけでもなく、かといって取りたい資格のようなものもない。旅行に行くにしてもひとり旅になってしまって素晴らしい景色や、新鮮な海産物の美味しさを共有してくれるパートナーも今はいない。
私は何かをしたい人ではない、ということはわかっていた。どちらかといえば、私はなにかをしておかなければ不安になってしまう人なのだ。そして、その何かを自分で見つけることが絶望的にヘタクソなのだ。与えられた仕事は確実に要領よくこなせるのだが、自分でアイデアを出しながら新しいことにチャレンジする力はない。常に私は受け身で生きてきた。そういった私に私自身危機感を持っていた。何かをしなければ、何か為になることを、人生を豊かに充実させる何かをしなければいけないと。
 そして、私は今年初めて何もしない有給休暇を取得した。今回のこの何もしないが仕事を休むという行為は私にとって大きな冒険であった。
 有給休暇取得許可証なるものを上司のデスクにもって行く時は少し鼓動が早まった。そんな、私の気持ちとは裏腹にあっさりと有給の許可はおりた。
 私がこの二日間の有給休暇で地元に帰ってきた理由は、本当に何もしないと目標を立てていたからだ。目覚まし時計で起きるのも拒否、ご飯を作ることも拒否、化粧も拒否、もちろんいつ寝てもいい。これを実現できるのは実家しかなかった。
 初日、両親は盆暮れにも顔を出さない娘の突然の帰郷に驚いていたが、すぐに普段通りになり、あれやこれやと娘の近況を根掘り葉掘り聞いてきた。リタイヤした老人のいい暇つぶしになっただろう。
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