第5話

文字数 922文字

「確かに、ワイはアイツらより体もでかいし、手足もほぼほぼ自由に使えるけど、それが難しいんやな」
「いや、なんなんですかそれ?」
 俺はこの唐突な話の展開についていけなくなった。もともと人の話を聞くのは得意ではないし、人と話すのはもっと苦手だ。
「ちゃうねん。まぁ、聞きぃや。どうせ兄ちゃん暇なんやろ?ちょっと付き合え」
 オッサンの手にはいつの間にかラベルの剥がされたペットボトルが握られていた。その半分ほど水が入ったペットボトルは薄汚れていた。
「兄ちゃんなぁ、もしかしてこの世から消えたいって思ってたんちゃうか?人間にはタイミングっちゅうもんがあるやろ。何があったんや?話してみ。もしかしたら、今がええタイミングかも知れへんで」
 オッサンはペットボトルの水を一口飲むと俺に話を促してきた。
 俺はしばらく考え込んだ。見ず知らずのオッサンに自分のことを話すなんて出来るわけがない。だがその一方で、知らない他人だから自分のことを話せるような気もしていた。
 俺は結論としてどうせこのまま死ぬんだから、まぁこのオッサンに話してやってもいいかと思った。
「僕は学校にも行っていないんですよ。途中でやめてしまって」
 俺はゆっくりと話し出した。
「ずっと家に引きこもり気味で、何もする気が起きなくなっちゃったんです」
「ほう。なんでや」
「なんかね、そうなったきっかけは簡単じゃないのです。いじめが原因説、起立性調節障害説、教師との摩擦説とかね。でもね確かにどれも当てはまるんですけど、どれもどこかズレているような気がするんです」
 俺は伏し目で話し出した。こんな話、胸を張って堂々と話せるわけがない。
「学校かいな。しょうもない。まぁ、学生さんは学校が全てやっちゅう狭い世界で生きてるからな」
「はい。確かに一部のクラスメートからは煙たがられていました。通りすがりに聞こえる声でキモいだの鬱陶しいだの言われたこともあったし、体操着や筆記用具が無くてゴミ箱から出て来たこともありましたよ。それでも特に気にしていませんでした。捨てる神あれば拾う神ありで、俺と話をしてくれる友達も少ないながらいたし、だから学校生活で特段の孤独を感じたこともなかったんですけどね」
「先生はどないしてん」
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