第8話

文字数 755文字

「あのな、兄ちゃんはここまでいろんな人の手借りてきたやん。まぁ、よく甘えてきたな。もう、他人と関わることも嫌になったんやろ?でもな、自殺も道具使うやろ。ロープかナイフか電車か。どれも他人が用意したもんや。よぅ考えてみ?他人が助けるか?世の中他人だらけやで。兄ちゃんの自殺も誰かのおかげになってまう。その点、餓死は別や。自分の意思で死ねる。おすすめや。どや?」
「どやって言われても・・・」
「もう一回いうで。他人が助けるか?世の中他人だらけやで。その理屈で言うたら世の中もっと生きやすいし死にやすくなっとるやろ?でもそうならへん。不思議やなぁ」
「その理屈で言ったら誰にも助けられずに生きていくなんて無理ですよね。自立も自殺もできない。死ねないなら苦しむだけの人生が待ってる。僕は死ぬという選択肢も持っておきたい」
「そらそうや。でも、死ぬの嫌やろ?怖いやん。そこでや、ワイはあるマジックワードを見つけたんや」
「マジックワード?」
「そや。この言葉はええで。なんもかんもが一瞬で解決しよる。知りたいか?」
 オッサンの目が少し意地悪な目に見えてきた。
「それは何ですか」
 まぁ、俺はどうせもうすぐ死んでもいいと思ってるし、その言葉を聞いてからでも遅くはないだろう。
「それはな」
 オッサンが少しもったいぶる。
「どーでもええ」
「?」
 しばしの沈黙が流れた。
「兄ちゃんわかってないやろ?」
「はい」
「鈍いやっちゃな。だから、どーでもええや」
「どうでもいい、ですか?」
「そや。どうでもええや。でもどっちか言うたらどーでもええやな。兄ちゃんの過去なんか俺にはどーでもええねん。ワイの過去も兄ちゃんにはどーでもええ。例えばあそこに歩いてるオッサンな」
オッサンが土手の先を指差した。その先には一人のスーツを着た男がカバンを抱えて歩いていた。
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