第12話

文字数 1,328文字

私が国文学を専攻することは必然だったのかも知れない。中学3年生の時に古典文学に触れその魅力に取りつかれた。それまでの私は特に読書家というわけでもなかった。別段小説が好きというわけでもなく、かといって国語の成績が極端に悪いということもなかった。
 私は周りの女子に合わせることで自分の居場所を見つけることに精一杯のごく普通の女の子だった。同級生が話題にするアイドルや、学校の先生の悪口なんかにひたすらうなずき同調し、薄くて脆弱な仲間意識を確認するだけの毎日を送っていた。私は、目立ちすぎず静かに、それでいてグループから外れることもないように自分のポジションをひたすらに守ることを学校生活の中心に置いていた。もちろん当時は、そんなことを気にすることもなかった。今から思えばただこの日本の片田舎の中学生という狭いコミュニティーに身を置いた10代前半の女子の生存本能がそうさせていたのだろう。
4月の初めにクラス委員を決めなければならない時でも、人気のある体育委員には立候補はしない。これはクラスでも中心的な存在の子が必然的に選ばれるし、ここで悪目立ちは最悪だと思っていた。続いて人気は副委員長という微妙な委員だった。この委員の役割は委員長ほど仕事や責任はないが、クラスの中での自尊心や優越感はそこそこ保てるというおいしいポジションだった。
私のクラスは必ず何らかの委員に立候補をしなければいけないシステムだったので、学級委員をやらずに逃げきることができなかった。体育委員と副委員長が決まってしまえば後は委員長のなすりつけ合いと、どうでもいい係の適当な選挙が始まる。私はそこで一早く、暇で責任も軽いだろう図書委員に立候補した。図書委員と言えば、週に一回、昼休みに図書室に行くだけの簡単なお仕事だ。ましてや、昼休みに図書室にくる生徒なんてほとんどいない。つまり図書委員は存在してるだけでよくて、お飾り的な委員だと私は思っていた。
この見立ては半分あたりで半分ハズレだった。昼休みの図書委員の仕事は意外と忙しかった。本の貸し出しや返却の手続きは図書司書さんがやるが、返却された本を書架に整理するのは図書委員の仕事だった。毎週昼休みには数冊の本が返却ボックスと書かれたプラスティックの箱に入れられている。司書さんがそれを整理して、返却手続きを終える。それを持って図書室の書架に振られた番号と本の背表紙に貼られたその番号を合わせてその棚へ返す。これを昼休みの45分間で終わらせるのだ。
返却ボックスに一冊も本がない時や少ない時はのんびりと紙とインクと埃の匂いを感じながら背の高い書架をボンヤリと眺められるが、月に一度ほどの割合で大量の本が返却ボックスに入りきれなく、はみ出している時があった。そんな時はもう必死だ。元来、非力で背も小さい私は折りたたみ式の踏み台と大量の本を持って狭い図書室を並行移動と垂直運動を繰り返し、汗だくになる。昼休みが終わりを告げる予鈴が鳴ってもまだ仕事が終わらない時もあった。チョコマカと動く私を見て司書さんは「リスみたいで可愛らしい」と笑った。私は馬鹿にされているのか褒められているのかよくわからないまま、相変わらずの愛想笑いをするだけだった。
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