7.忠告(2/4)

文字数 1,270文字

フィーメリアさんはそのまま数度、ビクビクと体を大きく震わせると、紫色の煙のような物を空中に吐き出した。
その量は、とても彼女一人の体内から出てきたとは思えないほどの量で、部屋が一瞬薄暗くなったほどだ。
すぐさま、デュナが風の精に煙を窓の外まで押し出させる。

「あれ、ブラックブルーの胞子なんだとさ」
後ろで、壁に背を預けているスカイがぽつりと呟いた。
相変わらず体調が悪そうだ。
障壁はデュナの立つ位置から後ろ、壁までを隙間なく覆っていた。
どうやら、あの胞子を私達が吸わないようにするためのものらしい。
まだ風の精を操っているデュナに代わって、ファルーギアさんが説明してくれる。
「ブラックブルーは、ああ見えて菌性の植物でして、ええと……きのこのようなものだと思っていただければいいでしょうか。
 実を食べた者を一時的に仮死状態にして、その体内で胞子を作るのです。
 丸一日程で胞子が出来上がると、仮死状態が解け、保菌者は動けるようになります。
 そのさらに数日後、熟成した胞子が保菌者から咳やくしゃみと共に吐き出されるという仕組みです」
「そうだったんですか……」
なんというか、起き抜けの脳みそがファルーギアさんの台詞を右から左に流してしまったようで、どうにも気の無い返事を返してしまったが、ファルーギアさんは気にする様子もなくにこにこしていた。

よく考えれば、デュナやスカイは一晩寝ていないわけだが、ファルーギアさんはそのさらに前日から研究室に篭っていたわけで、もしかすると一昨日の晩から寝ていないのではないだろうか。

服こそ初日と違っていたが、やはりくたびれたシャツによれっとしたベスト。
笑うと何だか薄幸そうに見えてしまうところも、やつれた印象も元からだったせいか
普段とあまり変わらないように見える。
ファルーギアさんというのは案外タフな人なのかもしれない。

室内から煙を完全に追い出し、デュナが障壁を解く。
精霊達がこぞって報酬の精神をいただこうとデュナに纏わり付いた。
「デュナ、今の煙って吸うと危なかったの?」
だとしたら、フォルテは連れてこなくて正解だったかもしれない。
そんな風に考えつつ声をかけると、デュナがちょっと困った顔をした。
「うーん……。危ないって事もないけれどね。
 人の体内から、ちゃんと外に吐き出される為に、異物だと感じるように出来てるのよ。あの胞子は。
 つまり、ちょっとでも吸うと、それを完全に体外に出すまで、くしゃみや鼻水が止まらなくなっちゃうわけ」

なるほど……。
それは確かに、ちょっと遠慮したい。

もしかしたら、最初の実験後には、皆でくしゃみを連発していたりしたのだろうか。

そもそも、あの胞子が人間に寄生して発芽するような危険なものなら、もっとブラックブルーの認知度も上がっていただろうし、こんな風に一般家庭の庭に……いや、この場合は一般的な規模の庭ではないが、ともかく、こんな風に知らない人がうっかり食べたりするようなこともなかっただろう。

「うう……ん?」

聞きなれない声に、ベッドを見ると、フィーメリアさんが体を起こそうとしているところだった。
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登場人物紹介

愛称 : ラズ
名前 : ラズエル・リア
年齢 : 18歳
職業 : 魔法使い(マジシャン)
一応主人公

性格はとにかく地味
少し心配性
にもかかわらず、変なところでアバウト

考えにふけると周りが見えなくなるタイプで
傍目にぼんやりとしていることが多い

幼い頃から親の冒険を見てきたため、誰より旅慣れている
基礎的な生活知識があり、家事も一通りこなす

愛称 : フォルテ
名前 : フォーテュネイティ・トリフォリウム
年齢 : 12歳
職業 : 無し
ストーリー進行上のキーキャラクター

記憶を失い、森で1人泣いているところをラズ達に拾われる

極度の人見知りだが、ラズにはべったり懐いており、また、ラズにも妹のように可愛がられている

ポーチにいつもお菓子を持ち歩き、親切にするとお裾分けしてくれる
甘い物が大好き

愛称 : スカイ
名前 : スカイサーズ・シルーサー
年齢 : 19歳
職業 : 盗賊(シーフ)
清く正しい熱血漢で、女性や子供にはとことん優しい

単純な性格ではあるが、意外と頭は良く、手先も器用
家事では裁縫担当

頭に巻いているクジラのバンダナは、本人のお手製

盗賊のわりに目立つ青い髪と緑のシャツが目を惹く
足を紐でぐるぐる巻きにしているのは、タイツを履くのが恥ずかしいから

愛称 : デュナ
名前 : デューナリア・シルーサー
年齢 : 22歳
職業 : 魔術師(セージ)

PT(パーティー)の頭脳担当
むしろ会計も指揮も戦闘も全部担当

一見、冷静沈着そうに見えるものの、その沸点は弟とあまり変わらない

弟を実験台に、日々怪しげなアイテムの合成に勤しむ

どんな場所でも、必要とあらば、怪しく眼鏡を輝かせることが出来るのが特徴

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