5.ブラックブルー(2/4)

文字数 1,549文字

記憶の中を必死に探る。
遠い昔、両親とブルーベリーを摘んだ事が何度かあった。
真っ青な空に、見上げるほど積み上がった雲。薄紫のマント。
母がブルーベリーを摘んではこちらに見せて、楽しそうに笑う。
灰色の大きな犬は、舌をだらんと出して木陰で伏せていて、帽子を嫌がる私に、熱中症になるから。と、父が背中で日陰を作ってくれて……。
そう、暑い盛りだったはずだ。
「――それ本当にブルーベリー?」
顔を上げると、スカイが早速その実を食べようとしているところだった。
私の声に緊張が含まれていたのに気付いてか、デュナが、スカイの摘み上げていたブルーベリーを力いっぱい叩き落した。
どう見ても、必要以上の威力で。
スカイの手ごと。
「いっ――!!!!!」
声が出せないほど痛かったのだろうか。
よろりと大きく揺れた後、スカイは完全にしゃがみこんでしまった。
地にうずくまったスカイは、その背に負っているフィーメリアさんの陰に完全に隠れてしまっている。
「フォルテは? ひとつでも食べた?」
デュナの問いに、フォルテがぷるぷると首を振る。
「皆と一緒に、食べようと思ったの……」
どういう事態になったのかがわからず、フォルテは明らかに戸惑った表情を見せている。
「そう、よかったわ」
答えを求めるように私を見つめてくる、フォルテのふわふわのプラチナブロンドをそっと撫でる。
「それはブルーベリーじゃないみたい」

昔。
私がフォルテよりも、もう少し小さかった頃、森で見つけたブルーベリーを摘んで、両親に見せたことがあった。
母は、少し困った顔をして私の頭を撫でながら、こう言ったのだ。
「本物のブルーベリーは、暑い時にしか生らないの」
そうだ。この話には続きがあった。
母の言葉を思い出しながら、ゆっくり口にする。
「寒い時期に生るブルーベリーそっくりの実は、ブラックブルーって言ってね。食べると丸一日は眠り続けてしまうのよ」
「それだわ!」
デュナの声にはっとする。
そうか。
フィーメリアさんは、それで目を覚まさないのか。
「丸一日っつーか、三日くらいはここで寝てたみたいだけどな」
スカイの声がフィーメリアさんの下から聞こえてくる。
屈んだままのスカイの足元には、先ほどまでフィーメリアさんが倒れていた部分の草がぐったりと潰されていた。
「睡眠薬入りのスープを飲みすぎた、どっかの誰かと同じでしょ。食べ過ぎたのね。きっと」
デュナがスカイの心配を他所に、あっさりと返す。
むしろ、スカイにとってその発言は墓穴だったようだ。
「うぐ……」
悔しくてか、そろそろ潰されて苦しくなってきてかは分からないが、スカイのうめき声が聞こえた。


私達は、ブラックブルーの実を持って、フィーメリアさんと共に屋敷に戻ることにした。
「ああ、これがブラックブルー……深すぎる眠り。ですか」
ファルーギアさんは、フォルテの持ち帰った実を拾い上げると、興味深そうに眺めている。
そんなに有名な植物ではなかった気もするのだが……。
私と目が合うと、くたびれた服装の頼りなさげな男性は、
「私はこれでも、植物の研究をしていまして……」
と、ちょっと申し訳なさそうに微笑んだ。

私は、そんな意外そうな顔をしていたのだろうか。
どうも、私は感情が顔に出てしまいやすいらしい。気をつけないと……。
「しかし、図鑑では見たことがありましたが、まさか自分の庭に生えていたとは。
 遺跡の穴の事といい、自身の家なのに把握していないことばかりで、いや、お恥ずかしいです」
ファルーギアさんが、その小柄な体をさらに小さくする。
「まあ、庭と言っても、こんなに広いとなぁ……」
スカイの台詞に続いて、私もフォローを入れる。
「そうですよ、お気になさらないで下さい」
「はあ、すみません」
なんとか顔を上げたファルーギアさんの目の前には、腕を組んだデュナが待ち構えていた。
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登場人物紹介

愛称 : ラズ
名前 : ラズエル・リア
年齢 : 18歳
職業 : 魔法使い(マジシャン)
一応主人公

性格はとにかく地味
少し心配性
にもかかわらず、変なところでアバウト

考えにふけると周りが見えなくなるタイプで
傍目にぼんやりとしていることが多い

幼い頃から親の冒険を見てきたため、誰より旅慣れている
基礎的な生活知識があり、家事も一通りこなす

愛称 : フォルテ
名前 : フォーテュネイティ・トリフォリウム
年齢 : 12歳
職業 : 無し
ストーリー進行上のキーキャラクター

記憶を失い、森で1人泣いているところをラズ達に拾われる

極度の人見知りだが、ラズにはべったり懐いており、また、ラズにも妹のように可愛がられている

ポーチにいつもお菓子を持ち歩き、親切にするとお裾分けしてくれる
甘い物が大好き

愛称 : スカイ
名前 : スカイサーズ・シルーサー
年齢 : 19歳
職業 : 盗賊(シーフ)
清く正しい熱血漢で、女性や子供にはとことん優しい

単純な性格ではあるが、意外と頭は良く、手先も器用
家事では裁縫担当

頭に巻いているクジラのバンダナは、本人のお手製

盗賊のわりに目立つ青い髪と緑のシャツが目を惹く
足を紐でぐるぐる巻きにしているのは、タイツを履くのが恥ずかしいから

愛称 : デュナ
名前 : デューナリア・シルーサー
年齢 : 22歳
職業 : 魔術師(セージ)

PT(パーティー)の頭脳担当
むしろ会計も指揮も戦闘も全部担当

一見、冷静沈着そうに見えるものの、その沸点は弟とあまり変わらない

弟を実験台に、日々怪しげなアイテムの合成に勤しむ

どんな場所でも、必要とあらば、怪しく眼鏡を輝かせることが出来るのが特徴

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