7.目送(2/2)

文字数 1,452文字

階段を下りて廊下に出ると、デュナとスカイがなにやら言い合っていた。

「二人とも、お腹は……?」
「減った!」「空いたわね」
二人の声が重なる。
「じゃあすぐご飯作るね。あ。お弁当は要る?」
「大丈夫よ、夕飯は宿で済ませるから」
「そっか」
くるりと背を向けて、台所へ向かおうとした私をスカイの声が引き止める。
「フォルテは……?」
「うん……。今のところ落ち着いたよ。念の為、今日は一日安静にさせるつもり」
「そうか……。まあ、クエストは俺達だけでなんとかなるから、ラズもちゃんと休んどけよ」
「うん、ありがと」
再び二人に背を向けると、後ろで口喧嘩が再開された。
折角止まったのを、わざわざやり直さなくてもいいような気がするのだが、
二人にとってあれは欠かせないコミュニケーションなのだろう。ということにでもしておこう。

台所に足を踏み入れると、何故かフローラさんがエプロン姿で待ち構えていた。
……ああ、嫌な予感しかしない……。
「ラズちゃん、ご飯作るんでしょう? 私も手伝うわよ~」
遠慮します。
心の中では即答するものの、フローラさんのにこにこ笑顔に言葉が詰まる。
きっぱり断れればいいのだが、居候という私の立場上、良くしてくださっているフローラさんに失礼なことは言えなかった。
例え、私に失礼な物言いをされたところで、フローラさんは相変わらずにこにこと接してくれるだろう。
それでも、いや、それだからこそ、彼女にはなるべく感謝を込めて接したいと思っていた。

「そ、それよりも、私が食事の支度をする間、フォルテの面倒をお願いできますか?」
フローラさんが嬉しそうにライラック色の瞳を細める。
「ええ、任せておいてちょうだい~♪」
軽い足取りで、屋根裏へと向かうフローラさん。
フォルテ、ごめんね。少しの間フローラさんをお願い……。
心の中でフォルテに謝って、私は料理に取り掛かった。

「お昼過ぎに出るくらいなら、翌朝の方がいいんじゃないの? 外で泊まる回数が減らせないかしら?」
玄関先で、フローラさんが名残惜しそうに二人に声をかける。
「ザラッカまで二十時間以上かかるから、どうせ二泊はしないといけないのよ」
デュナが答えると、スカイが横から
「まあ、ねーちゃんは金に汚いから一泊は野宿だろうけどな」
と付け足す。
「文句があるなら、あんただけ外で二泊してもいいわよ?」
というデュナの言葉に「なんでだよ!」と突っ込みを入れるスカイ。
そんないつも通りの二人を、私の隣からフォルテが見上げていた。
「じゃ、二人とも、家の事は任せたわよ」
デュナが私達の頭を軽く撫でる。
「うん。気をつけてね」
二人が戻ってくるまで、家の事は私が何とかするから。という気持ちを込めて、デュナの言葉に強い頷きで答える。
「行ってくるな」
と、スカイもフォルテの頭をポンポンと撫でた。
「二人だけで本当に大丈夫? 気をつけて行ってくるのよ~」
フローラさんが実の子達を抱き寄せて別れを惜しむ。

むしろ、お荷物の私やフォルテがいない、二人だけのパーティーの方が、色々と効率も良さそうな気がするが、そこは言わないでおこう。自分が落ち込むだけだから。
フォルテは、まだまだ心ここにあらずといった状態だったが、なんとか二人をぎこちない笑顔で見送ることが出来た。
デュナ達の姿が小さく小さく遠ざかって、村の端へと消える。

デュナは、水中でフォルテの額に浮かんだ文様についても、ザラッカで調べてくると言った。
その結果と、ファルーギアさんからの報酬を楽しみにする事にして、私は、ひとまずフォルテとフローラさんを家の中へと促した。
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登場人物紹介

愛称 : ラズ
名前 : ラズエル・リア
年齢 : 18歳
職業 : 魔法使い(マジシャン)
一応主人公

性格はとにかく地味
少し心配性
にもかかわらず、変なところでアバウト

考えにふけると周りが見えなくなるタイプで
傍目にぼんやりとしていることが多い

幼い頃から親の冒険を見てきたため、誰より旅慣れている
基礎的な生活知識があり、家事も一通りこなす

愛称 : フォルテ
名前 : フォーテュネイティ・トリフォリウム
年齢 : 12歳
職業 : 無し
ストーリー進行上のキーキャラクター

記憶を失い、森で1人泣いているところをラズ達に拾われる

極度の人見知りだが、ラズにはべったり懐いており、また、ラズにも妹のように可愛がられている

ポーチにいつもお菓子を持ち歩き、親切にするとお裾分けしてくれる
甘い物が大好き

愛称 : スカイ
名前 : スカイサーズ・シルーサー
年齢 : 19歳
職業 : 盗賊(シーフ)
清く正しい熱血漢で、女性や子供にはとことん優しい

単純な性格ではあるが、意外と頭は良く、手先も器用
家事では裁縫担当

頭に巻いているクジラのバンダナは、本人のお手製

盗賊のわりに目立つ青い髪と緑のシャツが目を惹く
足を紐でぐるぐる巻きにしているのは、タイツを履くのが恥ずかしいから

愛称 : デュナ
名前 : デューナリア・シルーサー
年齢 : 22歳
職業 : 魔術師(セージ)

PT(パーティー)の頭脳担当
むしろ会計も指揮も戦闘も全部担当

一見、冷静沈着そうに見えるものの、その沸点は弟とあまり変わらない

弟を実験台に、日々怪しげなアイテムの合成に勤しむ

どんな場所でも、必要とあらば、怪しく眼鏡を輝かせることが出来るのが特徴

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