6.神威(2/3)
文字数 1,910文字
……瞬間移動?
そういえば、スカイが今覚えてる技がそんなのだって言ってたっけ……。
そっか、これの事なんだ……。
私の首に腕を回してたバンダナの男が、視界の端に鋭利なものをちらつかせている。
「動くな! こいつがどうなってもいいのか!!」
頭の後ろでそう怒鳴られて初めて、自分が今、人質として捕まったのだという事を理解した。
ピタリと頬に当てられた刃に、みるみる体温が奪われてゆく気がする。
私を見て、スカイとデュナが動きを止める。
と、同時にローブの男も動きを止めた。
私の背後、バンダナの男を見上げ、軽く肩をすくめると、流れるような動きで剣を鞘に収め、出入り口側の壁にもたれるローブの男。
人質を取った今、自分の出番は無いという事なのだろうか。
バンダナの男を見上げたその目には、嫌悪感すら宿っていたようにも見えた。
最初に叩きつけられたうちの残り二人も、ようやく目を覚ましたらしく、瓦礫と、自分達に折り重なる仲間を掻き分けて出てくる。
通路から一人ずつ飛び出してきた敵は、一人につき一本の水流で確実に仕留めていたものの、最初の三人は一本で三人とも薙ぎ倒したせいか、回復が早いようだった。
バンダナの男は、這い出てきた仲間に私の番を任せると、部屋のほぼ中央にいるデュナ達に近付いて行く。
男が、デュナの正面に広がる見えない壁をノックして見せると、渋々ながらデュナが障壁を解いた。
キッとバンダナの男を睨み上げるデュナ。
男は、ヒールのあるデュナよりもさらに頭一つ分ほど背が高く、間近で見下ろされると威圧感がありそうだった。
デュナの後ろでは、スカイがあからさまに歯痒い表情でそれを見ている。
なんとかこの状況から抜け出さないと……。
このままではミイラ取りがミイラになってしまう。
背後にいるはずのフォルテを見ようとして、少しでも首を捻ろうとしたところを、首筋に添えられた刃に止められる。
私は今、一人の男に羽交い締められた状態で、もう一人の男からナイフを当てられていた。
ロッドはまだ握っている。よね?
右腕は男に抑えられていて動かせなかったが、グローブ越しにいつもの木の感触を確かめる。
マントと背中の間にロッドを隠すようにして、口に出さないよう注意しながらロッドの先に光球を作る。
バンダナの男が、デュナの顔に手を伸ばす。
デュナは首を縮める事も無く、真っ直ぐに男を睨み返している。
男は無造作に、するりとデュナからヒビの入った眼鏡を奪った。
「なんだ。眼鏡を外すと美人じゃないか」
男の嘲るような声に
「眼鏡の良さが分からないなんて残念な人ね」
と、デュナが軽蔑の眼差しで答える。
デュナの態度に、男が激昂したのが後姿からも分かった。
斜め上から振り下ろされた拳に、デュナが肩から床へと叩き付けられる。
「ねーちゃん!」
駆け寄ろうとするスカイを男が一喝する。
「動くな!! お前等は自分達の置かれた状況ってやつが分かってねぇらしいな……」
不気味に響くその声。じりっと倒れたデュナに近付くその男の影に恐怖を覚える。
光球を放つなら、もう今しかないかも知れない。
背後の男に撃てば、とりあえず拘束は解かれるだろう。
……マントにも穴が開くのは確実だけど。
問題はナイフの男からすり抜けられるか……。
多少の怪我は仕方ないとして強引に抜けるしかないかな。
首がすっぱりいかなきゃいいなぁ……。
その時、背後で可愛らしい声がした。
「うーん……?」
「フォルテ!」
思わず力いっぱい振り返りそうになる。
首筋の冷たい感触が、一瞬熱く感じる。
あ。ちょっと切れちゃったかな……。
目を覚ましたフォルテが見たのは、そんな光景だった。
拘束され、首筋に当てられたナイフから一筋の雫が零れる私。
床に倒され今にもバンダナの男に圧し掛かられそうなデュナ。
その奥には傷だらけのスカイ。
「あ……ああ、あ……」
その小さな声が震えて掠れる。
視界にはフリルの付いたピンクのスカートの裾までしか入らず、フォルテの表情までは見えなかったが、今、あのラズベリー色の大きな瞳にはきっと大粒の涙が浮かんでいる。
そう確信すると、胸が締め付けられて居ても立ってもいられなくなる。
「気にするな、そいつは動けねぇよ」
フォルテが目覚めた事を気にしてきょろきょろしていた私の近くの男達に、バンダナの男が苛立ちを抑えるようにして声をかける。
確かにフォルテは、両手両足を括りつけられていたし、それで無理に動こうとしたところでその場に倒れるのが落ちだろう。
「や……」
涙混じりのフォルテの声に、心の中で謝る。
もうこの子を泣かせたりしないと、繰り返し立てる誓いは、いつもあっけなく崩れる。
自分の不甲斐無さに涙が滲みそうになった時、私達は、フォルテの叫びを初めて耳にした。
そういえば、スカイが今覚えてる技がそんなのだって言ってたっけ……。
そっか、これの事なんだ……。
私の首に腕を回してたバンダナの男が、視界の端に鋭利なものをちらつかせている。
「動くな! こいつがどうなってもいいのか!!」
頭の後ろでそう怒鳴られて初めて、自分が今、人質として捕まったのだという事を理解した。
ピタリと頬に当てられた刃に、みるみる体温が奪われてゆく気がする。
私を見て、スカイとデュナが動きを止める。
と、同時にローブの男も動きを止めた。
私の背後、バンダナの男を見上げ、軽く肩をすくめると、流れるような動きで剣を鞘に収め、出入り口側の壁にもたれるローブの男。
人質を取った今、自分の出番は無いという事なのだろうか。
バンダナの男を見上げたその目には、嫌悪感すら宿っていたようにも見えた。
最初に叩きつけられたうちの残り二人も、ようやく目を覚ましたらしく、瓦礫と、自分達に折り重なる仲間を掻き分けて出てくる。
通路から一人ずつ飛び出してきた敵は、一人につき一本の水流で確実に仕留めていたものの、最初の三人は一本で三人とも薙ぎ倒したせいか、回復が早いようだった。
バンダナの男は、這い出てきた仲間に私の番を任せると、部屋のほぼ中央にいるデュナ達に近付いて行く。
男が、デュナの正面に広がる見えない壁をノックして見せると、渋々ながらデュナが障壁を解いた。
キッとバンダナの男を睨み上げるデュナ。
男は、ヒールのあるデュナよりもさらに頭一つ分ほど背が高く、間近で見下ろされると威圧感がありそうだった。
デュナの後ろでは、スカイがあからさまに歯痒い表情でそれを見ている。
なんとかこの状況から抜け出さないと……。
このままではミイラ取りがミイラになってしまう。
背後にいるはずのフォルテを見ようとして、少しでも首を捻ろうとしたところを、首筋に添えられた刃に止められる。
私は今、一人の男に羽交い締められた状態で、もう一人の男からナイフを当てられていた。
ロッドはまだ握っている。よね?
右腕は男に抑えられていて動かせなかったが、グローブ越しにいつもの木の感触を確かめる。
マントと背中の間にロッドを隠すようにして、口に出さないよう注意しながらロッドの先に光球を作る。
バンダナの男が、デュナの顔に手を伸ばす。
デュナは首を縮める事も無く、真っ直ぐに男を睨み返している。
男は無造作に、するりとデュナからヒビの入った眼鏡を奪った。
「なんだ。眼鏡を外すと美人じゃないか」
男の嘲るような声に
「眼鏡の良さが分からないなんて残念な人ね」
と、デュナが軽蔑の眼差しで答える。
デュナの態度に、男が激昂したのが後姿からも分かった。
斜め上から振り下ろされた拳に、デュナが肩から床へと叩き付けられる。
「ねーちゃん!」
駆け寄ろうとするスカイを男が一喝する。
「動くな!! お前等は自分達の置かれた状況ってやつが分かってねぇらしいな……」
不気味に響くその声。じりっと倒れたデュナに近付くその男の影に恐怖を覚える。
光球を放つなら、もう今しかないかも知れない。
背後の男に撃てば、とりあえず拘束は解かれるだろう。
……マントにも穴が開くのは確実だけど。
問題はナイフの男からすり抜けられるか……。
多少の怪我は仕方ないとして強引に抜けるしかないかな。
首がすっぱりいかなきゃいいなぁ……。
その時、背後で可愛らしい声がした。
「うーん……?」
「フォルテ!」
思わず力いっぱい振り返りそうになる。
首筋の冷たい感触が、一瞬熱く感じる。
あ。ちょっと切れちゃったかな……。
目を覚ましたフォルテが見たのは、そんな光景だった。
拘束され、首筋に当てられたナイフから一筋の雫が零れる私。
床に倒され今にもバンダナの男に圧し掛かられそうなデュナ。
その奥には傷だらけのスカイ。
「あ……ああ、あ……」
その小さな声が震えて掠れる。
視界にはフリルの付いたピンクのスカートの裾までしか入らず、フォルテの表情までは見えなかったが、今、あのラズベリー色の大きな瞳にはきっと大粒の涙が浮かんでいる。
そう確信すると、胸が締め付けられて居ても立ってもいられなくなる。
「気にするな、そいつは動けねぇよ」
フォルテが目覚めた事を気にしてきょろきょろしていた私の近くの男達に、バンダナの男が苛立ちを抑えるようにして声をかける。
確かにフォルテは、両手両足を括りつけられていたし、それで無理に動こうとしたところでその場に倒れるのが落ちだろう。
「や……」
涙混じりのフォルテの声に、心の中で謝る。
もうこの子を泣かせたりしないと、繰り返し立てる誓いは、いつもあっけなく崩れる。
自分の不甲斐無さに涙が滲みそうになった時、私達は、フォルテの叫びを初めて耳にした。