7.謝礼(1/3)

文字数 1,887文字

意識を失ったデュナと、まだ何が崩れ落ちてくるか分からない室内。
瓦礫の狭間から僅かに覗く空は遥か彼方で、地下二階はとても深く感じられた。

静まり返った部屋に、男の呻き声が小さく聞こえる。
生きている人がいるんだ。
きっと怪我をしてる。
少しでも治癒しないと……。
慌てて立ち上がろうとした私の腕を、スカイが掴んだ。
「動くと危ない」
崩れた瓦礫の積み重なる床は、正直、どこを歩けばいいのか見当もつかなかった。
けれど、すぐ傍で死にかけている人がいるというのに、放っておくわけにもいかない。
「でも……」
言いかけて、スカイの腕が震えていることに気付いた。
なるべく静かに、それでも、肩で息をしているスカイ。

そうだ。まずはスカイの治療をしなきゃ……。

スカイの左肩はまだ潰れたままだったし、焼けたような痕が走る背中も、繰り返し叩きつけられたような頭も、依然血まみれのままだった。

青い髪というのは、血に染まったところで紫になるわけではないんだな……と、右手に握ったロッドの光で照らし出されるスカイの髪を見つめる。
それは、スカイやデュナがどんな状況に追い込まれても、自分らしさを失わない事と重なるようだった。
スカイの肩に手を伸ばして、祝詞を唱えるべく口を開こうとした時、頭上から力強い声が響く。

「スカイ君、無事か!?」
聞き覚えのある、この声は……。
「「ロイドさん!?」」
私の声に、スカイの声が重なった。
「私達は大丈夫です! けど、盗賊崩れの人達が……!!」
自分の発した声は、自分でも驚くほどに震えていた。
「ラズ君!? どうしてそんなところに……」
「瓦礫に潰されてる人が大勢いるんです!!」
私の叫びに、ロイドさんが頭上で指示を飛ばす
「すぐ教会に連絡しろ!! ありったけのヒーラーを集めて来い!!」
返事をした男達の声にも、やはり聞き覚えがあった。
おそらく、あの猫背の男とぼんやりした男だろう。

ヒーラーというのは治癒術を扱う人たちの事だ。
遠ざかる二つの足音に幾分かホッとする。

盗賊ギルドの人でも、足音を立てて走るんだなぁ。
それとも、私に聞こえるようにわざと……?
「今そっちに行くから、君達はそのまま動かないでいるように。いいね?」
「はい」
優しい口調ではあったが、どこか有無を言わせない圧力を感じる言葉に、大人しく従う。

「スカイ、怪我治すね」
「おう。助かるよ」
今、私に出来る事といえばこのくらいしかない。
スカイに向き直り、その砕けた肩に手をかざすと、いつも通りの手順で祝詞を数度唱える。
肩を治して、背中を治して、最後に頭へと手をかざす。
「精神足りてるか?」
「うん、まだ大丈夫」
大分少なくなってはいたが、もうあと三回ほどは唱えられそうだ。
「いっ……てて……」
小さな声と共に、スカイが身じろぎする。
普段、治癒中もじっと耐える事が多いスカイが、声を上げるなんて珍しい。
やっぱり疲れているのかな……。

頭は、出血ほどの傷でもなく、一度で治ったようだった。
血の張り付いた髪を掻き分けて、スカイが傷口のあった場所に触れる。
「あ……治っちまったか」
ほんの少し残念そうな、困ったような顔で頭に触れているスカイ。
「? 治したよ……?」
なんだろう。治しちゃいけなかったとか……?
そんなことはないと思うんだけど……。
「や、なんでもない。さんきゅ。助かったよ」
ぶんぶんと頭を振りながら、スカイが慌てて感謝を口にする。
いつもの黒いバンダナも完全に外れてしまった頭は、その動きに合わせて、青い髪をなびかせた。
「思ってたよりフサフサだなぁ……」
「は?」
つい口から零れてしまった言葉を慌てて掻き消す。
「あ、ううん!! なんでもない!!!」
「お、おう……」
スカイが私の勢いに圧倒されて退いたのをいい事に、視線をフォルテに移動させる。
フォルテはまだぼんやりと空中を見つめたまま立ち尽くしていた。
「……フォルテ……」
そこへロイドさんが到着する。
来る途中、通り道の安全確保と瓦礫撤去をしながらここまで来たらしい。
なるほど、それでこんなに時間がかかったのか……。

ロイドさん達は、捕らえた盗賊崩れからアジトの場所を聞きだした後に起こったこの地震で、囚われているスカイ達が心配になって来たのだと話してくださった。
地上もそれなりには揺れたらしいが、ここほどではなかったようだ。

その話にホッとする。
これで、地上にまで被害者が出ては…………。

……えーと……被害者?

待って……。なんだか、これは……。

仮に、ここで瓦礫に潰れた男達が被害者だとして、その、加害者は誰になる……?
まさか、それって……。

――………………フォルテ……?

気付きたくなかった事実に、私は言葉を失った。
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登場人物紹介

愛称 : ラズ
名前 : ラズエル・リア
年齢 : 18歳
職業 : 魔法使い(マジシャン)
一応主人公

性格はとにかく地味
少し心配性
にもかかわらず、変なところでアバウト

考えにふけると周りが見えなくなるタイプで
傍目にぼんやりとしていることが多い

幼い頃から親の冒険を見てきたため、誰より旅慣れている
基礎的な生活知識があり、家事も一通りこなす

愛称 : フォルテ
名前 : フォーテュネイティ・トリフォリウム
年齢 : 12歳
職業 : 無し
ストーリー進行上のキーキャラクター

記憶を失い、森で1人泣いているところをラズ達に拾われる

極度の人見知りだが、ラズにはべったり懐いており、また、ラズにも妹のように可愛がられている

ポーチにいつもお菓子を持ち歩き、親切にするとお裾分けしてくれる
甘い物が大好き

愛称 : スカイ
名前 : スカイサーズ・シルーサー
年齢 : 19歳
職業 : 盗賊(シーフ)
清く正しい熱血漢で、女性や子供にはとことん優しい

単純な性格ではあるが、意外と頭は良く、手先も器用
家事では裁縫担当

頭に巻いているクジラのバンダナは、本人のお手製

盗賊のわりに目立つ青い髪と緑のシャツが目を惹く
足を紐でぐるぐる巻きにしているのは、タイツを履くのが恥ずかしいから

愛称 : デュナ
名前 : デューナリア・シルーサー
年齢 : 22歳
職業 : 魔術師(セージ)

PT(パーティー)の頭脳担当
むしろ会計も指揮も戦闘も全部担当

一見、冷静沈着そうに見えるものの、その沸点は弟とあまり変わらない

弟を実験台に、日々怪しげなアイテムの合成に勤しむ

どんな場所でも、必要とあらば、怪しく眼鏡を輝かせることが出来るのが特徴

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