4.風の軌跡(3/4)
文字数 1,663文字
膝下ほどまでを完全に絡めとられた3人の男達は、それぞれに脱出するべく暴れていたが、
少なくとも覆面の男達は、足音に焦ったように見えた。
石ともまた違う、つるつるとしたその表面に剣先を突き立てようとしていたローブの男が、懐に手を入れる。
デュナの肩に風の精霊が現れる。
「ねーちゃん!?」
背後から、聞きなれた声がした。
「遅い!!」
デュナが振り返らずに怒鳴る。
ああ、そうか。
デュナは最初から、スカイが来るのを待ってたんだ。
私達がいる路地裏は、スカイが修行をしていたはずの盗賊ギルドから
そう離れていない場所だった。
最初の攻撃が、ちょっと派手すぎた気はしていたけれど、あれはスカイを呼び寄せる為だったのか……。
振り返ると、スカイの後ろにも数人の見慣れない男達が立っていた。
皆一様に体にフィットしたタイツ状の服を着ているところから、ギルドの人達なのだろう。
「フォルテが、攫われそうなの!」
スカイに簡潔に状況を伝える。
「あれか! 取り返してくればいいんだな」
私達のずっと向こうに立つ男達の抱えるフォルテに気付いたスカイが走り出す。
「実行!」
デュナの放った魔法は、スカイの補助ではなくローブの男への攻撃だった。
見れば、いつの間にかローブの男が固められた足場から抜け出して、覆面達の元に駆けつけている。
その手には赤く炎を纏った剣。
見る限り先程と同じ剣のようだったが、今はそれが激しく燃える炎に包まれていた。
あの男は、風だけじゃなく、火の精霊も持っていたのか。
デュナの放った風の一閃を、赤い刀身で掃うように斬り捨てると、男は覆面達の足元にその剣を突き立てる。
彼らの自由を奪っていた物体が一瞬で溶解する。
「行け!」
ローブの男が初めて声を出した。
覆面の男達が背を向けて走り出す。
「待て!!」
スカイがそれに飛びつこうとするのを、鞭の一閃が制する。
周りを見れば、最初にデュナに吹っ飛ばされた男達が意識を取り戻して、サポートに入っていた。
デュナの背に大気の精霊が姿を現す。
後ろからでも、激しく上下する肩と荒い息から、デュナが相当消耗しているのが分かった。
「くそっ」
三人の男に鞭で牽制されて、動けないスカイ。
ぐったりしたフォルテを抱えて駆け去る後姿が、見る間に遠ざかる。
無理にでも突破しようとするスカイに、放たれる鞭。
黒く唸りをあげて襲い来るそれを、黒い影が瞬時に絡め取る。
こちらから伸びた鞭を視線で辿ると、その先にはスカイと一緒に来たギルドの人達が居た。
「そのなりに鞭捌き……お前達はやはり我々のギルドに所属していた者か!」
なにやら怒りの篭った声。
そういえば迷惑してるって言ってたんだっけ。
間近で聞こえた、ひときわ大きな呼吸の音。
デュナが僅かに震える右手を、遠ざかるフォルテに伸ばそうとしたとき。
ドンッと強い衝撃が体に走る。
足が地面から離れる。
私は、デュナもろとも後方へと吹っ飛ばされていた。
そう広くない路地を真っ直ぐに吹き飛んで、肩から地面に叩き付けられる。
そのまま、砂利混じりの土に思い切り背中をこすりながら止まる。
分厚いマントのおかげで、私自身への衝撃はたいした物ではなかったが、私と一緒に薙ぎ倒されたデュナの薄い白衣は地面との摩擦であちこち擦り切れていた。
「ねーちゃんっ! ラズっ!」
スカイの叫び声が遠くから響く。
スカイは……そうだ、フォルテを追おうとしていたはずだ……。
慌てて飛び起きると声を張り上げる。
「大丈夫だから、フォルテを!!」
それを聞いて、スカイがくるりと背を向けて駆け出す。
「ねーちゃんを頼む!」
「うん!」
気をつけて……。とその後姿に祈り……そして気付く。
ローブの男の姿がないことに。
確か、デュナが魔法を使おうとしたあの瞬間、紅く燃える剣をデュナの頭上に見た。
あの時、私達に一瞬で間合いをつめてデュナを斬った男は、その後どこに行ったんだろう。
辺りを見回せど、その痕跡はどこにも残っていない。
…………デュナを斬った男……?
じゃあ、デュナは、その男に斬られて…………どうなった?
視界の端に僅かに入るその白衣の肩は、いまだにピクリともしなかった。
少なくとも覆面の男達は、足音に焦ったように見えた。
石ともまた違う、つるつるとしたその表面に剣先を突き立てようとしていたローブの男が、懐に手を入れる。
デュナの肩に風の精霊が現れる。
「ねーちゃん!?」
背後から、聞きなれた声がした。
「遅い!!」
デュナが振り返らずに怒鳴る。
ああ、そうか。
デュナは最初から、スカイが来るのを待ってたんだ。
私達がいる路地裏は、スカイが修行をしていたはずの盗賊ギルドから
そう離れていない場所だった。
最初の攻撃が、ちょっと派手すぎた気はしていたけれど、あれはスカイを呼び寄せる為だったのか……。
振り返ると、スカイの後ろにも数人の見慣れない男達が立っていた。
皆一様に体にフィットしたタイツ状の服を着ているところから、ギルドの人達なのだろう。
「フォルテが、攫われそうなの!」
スカイに簡潔に状況を伝える。
「あれか! 取り返してくればいいんだな」
私達のずっと向こうに立つ男達の抱えるフォルテに気付いたスカイが走り出す。
「実行!」
デュナの放った魔法は、スカイの補助ではなくローブの男への攻撃だった。
見れば、いつの間にかローブの男が固められた足場から抜け出して、覆面達の元に駆けつけている。
その手には赤く炎を纏った剣。
見る限り先程と同じ剣のようだったが、今はそれが激しく燃える炎に包まれていた。
あの男は、風だけじゃなく、火の精霊も持っていたのか。
デュナの放った風の一閃を、赤い刀身で掃うように斬り捨てると、男は覆面達の足元にその剣を突き立てる。
彼らの自由を奪っていた物体が一瞬で溶解する。
「行け!」
ローブの男が初めて声を出した。
覆面の男達が背を向けて走り出す。
「待て!!」
スカイがそれに飛びつこうとするのを、鞭の一閃が制する。
周りを見れば、最初にデュナに吹っ飛ばされた男達が意識を取り戻して、サポートに入っていた。
デュナの背に大気の精霊が姿を現す。
後ろからでも、激しく上下する肩と荒い息から、デュナが相当消耗しているのが分かった。
「くそっ」
三人の男に鞭で牽制されて、動けないスカイ。
ぐったりしたフォルテを抱えて駆け去る後姿が、見る間に遠ざかる。
無理にでも突破しようとするスカイに、放たれる鞭。
黒く唸りをあげて襲い来るそれを、黒い影が瞬時に絡め取る。
こちらから伸びた鞭を視線で辿ると、その先にはスカイと一緒に来たギルドの人達が居た。
「そのなりに鞭捌き……お前達はやはり我々のギルドに所属していた者か!」
なにやら怒りの篭った声。
そういえば迷惑してるって言ってたんだっけ。
間近で聞こえた、ひときわ大きな呼吸の音。
デュナが僅かに震える右手を、遠ざかるフォルテに伸ばそうとしたとき。
ドンッと強い衝撃が体に走る。
足が地面から離れる。
私は、デュナもろとも後方へと吹っ飛ばされていた。
そう広くない路地を真っ直ぐに吹き飛んで、肩から地面に叩き付けられる。
そのまま、砂利混じりの土に思い切り背中をこすりながら止まる。
分厚いマントのおかげで、私自身への衝撃はたいした物ではなかったが、私と一緒に薙ぎ倒されたデュナの薄い白衣は地面との摩擦であちこち擦り切れていた。
「ねーちゃんっ! ラズっ!」
スカイの叫び声が遠くから響く。
スカイは……そうだ、フォルテを追おうとしていたはずだ……。
慌てて飛び起きると声を張り上げる。
「大丈夫だから、フォルテを!!」
それを聞いて、スカイがくるりと背を向けて駆け出す。
「ねーちゃんを頼む!」
「うん!」
気をつけて……。とその後姿に祈り……そして気付く。
ローブの男の姿がないことに。
確か、デュナが魔法を使おうとしたあの瞬間、紅く燃える剣をデュナの頭上に見た。
あの時、私達に一瞬で間合いをつめてデュナを斬った男は、その後どこに行ったんだろう。
辺りを見回せど、その痕跡はどこにも残っていない。
…………デュナを斬った男……?
じゃあ、デュナは、その男に斬られて…………どうなった?
視界の端に僅かに入るその白衣の肩は、いまだにピクリともしなかった。