5.赤い罠(3/7)

文字数 2,228文字

「いつまで持つかしら?」
金髪召喚術師の声がする。
よく見れば、その後ろには四人の男性が立っている。
中には、料理を運んでいた使用人さんの顔もあった。

暗闇に目が慣れてきたのか、それともこの赤い光が部屋を満たしているおかげか。
隅まで見渡せるようになった室内にも、やはりスカイの姿はない。

敵の数は五人で全てなのだろうか……?

ビュッと目の前を水の精霊が過ぎる。
魔法陣の端のほうで生まれつつあった人形、
膝下まで現れたその姿を水の精霊が流し潰した。

「ラズ! 自分達からの距離より、人形がどれだけ地面から出てきてるかで倒して!」
デュナがこちらを肩越しに振り返り忠告する。
「分かった!」
この傀儡達は、その姿を完全に外に出してしまってからしか動き出せない。
高度な召喚術ではまた違うのだが、このレベルの傀儡には自我というものがないため、完全に召喚され終わり、命令をされるまで、動き出すことはなかった。

次々に地面から沸いてくる人形をせっせと土くれに戻す。
だんだん、単調な作業に思えてきた。
デュナの足元に空になった小瓶が落ちる。
精神力の回復剤を飲んだようだ。

「ラズも、すぐ飲めるわね?」
「うん、まだ大丈夫」
ここに来る前、デュナから渡されていた二本の回復剤が、マントの内ポケットにあるのを確認する。

「キリが無いわね……」
背後からデュナの呟きが聞こえる。
「この石は私では抑えられないし」
「魔法陣の外に出たら、止まらないのかな?」
私は疑問を口にしてみる。
「まず無理ね。移動してる間に、動き出した傀儡達に囲まれて終わりだわ」

「よく分かってるじゃない」
金髪の彼女が、ふんぞり返って答える。
なんでそんなに偉そうなのか、そもそも彼女達の目的はなんだというのだろう。

「あなた達の目的は何? この石で何をしようとしているの!?」
デュナがキッと彼女を睨む。
「ふっ、よくぞ聞いてくれたわ」
金髪の彼女がわざとらしく前髪をかき上げた。

「私達の目的は、召喚術の偉大さを世に知らしめる事よっ!!」
胸を張る彼女の後ろで、男達もうんうんと頷いている。

「……どうやって?」
デュナの素朴な疑問に、ピタリと男達の頷きが止まった。
「そっ……そんなことあなた達には関係ないでしょう!!」
もしかして、具体的には何も考えていなかったのではないかと思えるような返事に、さらなる疲労感を感じつつも、次々と床から生えてくる人形達をちまちま崩していく。

「ちょっと前まで、人気術師ランキングでは常に召喚術師がトップだったというのに、ついに一昨年からは封印術師の方が上に来て……。召喚より封印する人の方が多いなんて、どういうこと!?」
金髪の彼女が、その輝く髪を振り乱して叫ぶ。
もしかしたら、この集団は、封印術師に個人的な恨みでもあるのかも知れない。
封印術師と言えば……。
「マーキュオリーさんはどうしたんですか!?」
ふん。と顎を上げ、少しだけ落ち着きを取り戻した彼女が答える。
「彼女も、あなた達の仲間の男も、この上にいるわよ」
やはり捕まっていたのか……。
とりあえず、スカイと同じく生かされてはいるみたいだけど、この状態をなんとかしなくては助けに行きようがない。
少なくなってきた精神力を補う為、ポケットから小瓶を取り出す。
フォルテにはマントの後ろ側で、そちら側の人形の出現を見張ってもらっていた。
瓶に入った青紫の液体を一気に流し込む。
鼻の奥にツンとくるほどの清涼感と、舌が痺れそうな苦味。この味はどうにも好きになれない。
デュナは結構好みらしいのだが。
フォルテの声に、杖に溜めていた光球を飛ばす。
人形は、やはりあっけなく崩れた。
「……クーウィリーさんも一緒ね?」
デュナが問う。その声がいつもより低い気がする。
「あら、分かってたの? そうよ、あの子ったら封印術師を見返してやるんだとか言ってたくせに、私達が苦労してせっかく手に入れた増幅石を持ち出して逃げるんだもの。一体何を考えてるのかしら」
苛立たしげな声。

つまり、クーウィリーさんは、少し前まで彼女達と共に打倒封印術師を目指して(?)いたにもかかわらず、それを裏切ったという事か。

「やっと捕まえたと思ったら、石は持っていなかったし……。まあ、あの子が頼る相手なんて知れてるから、先回りは簡単だったけれどね」

私達に石を託した後、捕まったクーウィリーさんを利用して、マーキュオリーさんを脅したと言う事なんだろう。
コックさんの話してくれた、幼い二人の可愛らしいエピソードを思い出す。
二人は、とても仲の良い姉妹だったそうだ。

「あんた達よりクーウィリーさんの方が、よっぽど物を見る目があったって事よ」
冷たく言い放つデュナの魔法で、水流が三体の人形を刺し貫く。
やはり、デュナの声が低い……気が……する。
何を怒っているのかも、何となく分かってきたが。
すっとデュナが背中からこちらに寄ると、小声で囁いた。
「スカイ達の居場所も分かったことだし、合図したら階段まで走るわよ」
「うん」
同じく小声で答える。フォルテもこっくりと頷いている。

今までデュナを取り巻いていた二~三人の水の精霊が、急にその数を増やす。
走り出す前に、出現しようとしている人形達を一掃するつもりなのだろう。

床には人形達の残骸で土のような泥のようなものが何層にも積み重なっていた。

ふと、先ほどまで足元をうろついていた召喚術師の精霊達がいないことに気付く。
「赤い雫の力をもって、我が下僕の肉片よ今ひとつになれ!!」

叫んだのはデュナではなく、金髪の彼女だった。
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登場人物紹介

愛称 : ラズ
名前 : ラズエル・リア
年齢 : 18歳
職業 : 魔法使い(マジシャン)
一応主人公

性格はとにかく地味
少し心配性
にもかかわらず、変なところでアバウト

考えにふけると周りが見えなくなるタイプで
傍目にぼんやりとしていることが多い

幼い頃から親の冒険を見てきたため、誰より旅慣れている
基礎的な生活知識があり、家事も一通りこなす

愛称 : フォルテ
名前 : フォーテュネイティ・トリフォリウム
年齢 : 12歳
職業 : 無し
ストーリー進行上のキーキャラクター

記憶を失い、森で1人泣いているところをラズ達に拾われる

極度の人見知りだが、ラズにはべったり懐いており、また、ラズにも妹のように可愛がられている

ポーチにいつもお菓子を持ち歩き、親切にするとお裾分けしてくれる
甘い物が大好き

愛称 : スカイ
名前 : スカイサーズ・シルーサー
年齢 : 19歳
職業 : 盗賊(シーフ)
清く正しい熱血漢で、女性や子供にはとことん優しい

単純な性格ではあるが、意外と頭は良く、手先も器用
家事では裁縫担当

頭に巻いているクジラのバンダナは、本人のお手製

盗賊のわりに目立つ青い髪と緑のシャツが目を惹く
足を紐でぐるぐる巻きにしているのは、タイツを履くのが恥ずかしいから

愛称 : デュナ
名前 : デューナリア・シルーサー
年齢 : 22歳
職業 : 魔術師(セージ)

PT(パーティー)の頭脳担当
むしろ会計も指揮も戦闘も全部担当

一見、冷静沈着そうに見えるものの、その沸点は弟とあまり変わらない

弟を実験台に、日々怪しげなアイテムの合成に勤しむ

どんな場所でも、必要とあらば、怪しく眼鏡を輝かせることが出来るのが特徴

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