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文字数 2,319文字

涙が枯れるまで泣き続けたフォルテは、日が暮れる頃に熱を出した。

ベッドで横になっているフォルテの、額に浮かんだ汗をそうっと拭き取る。
上気した頬に、ふわふわのプラチナブロンドがかかっている。

水に落ちたことも一因だろうが、どちらかといえば精神的なものの方が大きいように思う。

デュナは今、研究室で必死に黄色い花の成分抽出をしているはずだ。
フォルテのごたごたで、手折ってから大分時間が経ってしまったため、研究室に運び込まれた花は随分ぐったりしていた。

確か、半日で枯れてしまうんだったっけ……。

スカイも、デュナの手伝いに借り出されていた。
私はずっとフォルテの傍についていたのだが、しばらくうとうしていたフォルテがようやく寝付いたようなので、研究室で頑張っている二人に夜食でも作ろうかと台所へ向かう。
階段を下りると、廊下でフローラさんに出くわした。
フローラさんは、ベージュの薄手のパジャマの上に暖かそうなストールを羽織っている。
「あら、フォルテちゃんは……?」
「今寝たところです」
「そう……やっと落ち着いたのかしら。よかったわ~」
「フォルテが夜中に目を覚ましたりするかもしれないので、今夜は私、フォルテの部屋で寝ようと思います」
私の部屋は、デュナやスカイと同じく二階にあったが、フォルテの部屋は少し前まで物置になっていた屋根裏の一室を改造して作られていた。
「ラズちゃんも疲れてるんじゃないの? あ、私でよかったら、看病代わるわよ~?」
もしかして、フローラさんはデュナとスカイに手伝いを申し出て断られたところなのだろうか。
言葉とは裏腹に、その縋りつくような視線からは、お役に立ちたくてたまらないという気配を感じる。
こういう奉仕の精神は、確かに聖職者に向いているのだろう。
問題は、フローラさんがちゃんと手伝うつもりでも、その結果が大惨事になるという事実か……。

「ええと、お気持ちだけ、ありがたくいただきます……」
なるべく丁寧に、やんわりと断ってみる。
「でも、ラズちゃんも明日からザラッカに行くんでしょう? ほら、ちゃんと体を休めないと……」
案の定、フローラさんが食い下がってくる。
「ああ、そのことなら――……」
「ラズとフォルテは置いて行くわ」
私の言葉を遮って、背後からデュナの声がした。
「まあ、そうなの?」
フローラさんが、そのつぶらな瞳をさらに丸くする。
「デュナ、終わったの?」
「トイレに出てきただけよ。まだまだかかりそうだわ……」
「これから差し入れ作ろうかと思ってたんだけど」
「それは助かるわ。そうね……塩っ辛い物が食べたいわね」
「うん、わかった」
「じゃあ待ってるわね」と早々に会話を切り上げると、デュナは足早に研究室へと戻っていった。
まだしばらく寝られないようなら、腹持ちのいい物を用意する方がいいかな。
メニューをいくつか思い浮かべると、
「それじゃ、お夜食作るのを手伝いましょうか~」
と声を掛けられる。
にこにこと屈託のない笑顔を浮かべているフローラさん。

夜食のメニューを考える前に、まずはフローラさんをかわす方法を考えなくてはならないようだった。


日が昇る頃、やっとデュナとスカイが研究室から出てきたようだ。

夜中に何かあれば、すぐ起きて対応しようと気を張っていたせいか、階下の物音に目が覚めてしまった。

床に毛布を敷いて寝ていた事もあってか、二人がぼそぼそと二、三言葉を交わして、それぞれの部屋に戻ったらしい事が音でよく分かった。
会話はその短さからしておそらく、おやすみと挨拶をしたのだろう。

目が覚めたついでに、フォルテの額に乗せてあるガーゼを洗いかえようか。
よいしょと体を起こす。
昨日の疲れに、床での浅い眠りが堪えているのか、肩や首が小さく軋んだ音を立てる。
重い体を起こして、隣のベッドで眠るフォルテの様子を確認する。

まだ微熱程度の熱が続いているようで、頬はほんのり上気しているが、大粒の汗を浮かべていた当初よりは随分と落ち着いていた。
首周りの汗をそっと拭き取って、ガーゼを乗せ直す。

フォルテの寝顔をしばらく見つめていると、急激な眠気に襲われる。
デュナ達もしばらくは睡眠をとるはずだし、私ももう少し寝ることにしよう。

私が再び目覚めたのは、それから数時間後の事だった。

フォルテの様子を見ようと、ベッドを覗き込むと、ラズベリー色の瞳がじっとこちらを見返してきた。
「あれ? 起きてたんだ……?」
「うん……今起きたところ……」
フォルテの声は、寝起きのせいか少し掠れていた。
「お花は……?」
「大丈夫だよ、デュナとスカイがちゃんと処理してたから」
「そっか……」
俯きがちに話すフォルテは、どう見てもまだ立ち直れていそうになかった。
もう少し……時間が必要だろう。
「今日からファルーギアさんのところへまた出かけるつもりだけど、フォルテはどうしたい?」
デュナがいつもするように、フォルテの意思を聞いてみる。
私に行くつもりがないことは伝えずに。

「うー……ん」
目を伏せて、それきり黙ってしまうフォルテ。
いつもならすぐに「一緒に行く!」と元気良く返事が返ってくるのだが、やはり今回ばかりはそうもいかないようだ。
「フォルテが家に居たいんだったら、私も残るつもりだよ」
驚いたように私を見上げるフォルテ。
大きく開かれたその瞳にそうっと微笑む。
「じゃあ……私……家に居る……」
「うん」
嬉しさと申し訳無さが混ざったような表情で、言い辛そうに返事をするフォルテの頭を軽く撫でる。
どことなく腫れぼったさの残った瞼を、フォルテが細めたとき、ガタガタン! と階下で大きな物音がした。
続いて「起きなさい! ザラッカに行くわよ!!」とデュナの声が響き渡る。

どうやらスカイが文字通り叩き起こされたようだ。
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登場人物紹介

愛称 : ラズ
名前 : ラズエル・リア
年齢 : 18歳
職業 : 魔法使い(マジシャン)
一応主人公

性格はとにかく地味
少し心配性
にもかかわらず、変なところでアバウト

考えにふけると周りが見えなくなるタイプで
傍目にぼんやりとしていることが多い

幼い頃から親の冒険を見てきたため、誰より旅慣れている
基礎的な生活知識があり、家事も一通りこなす

愛称 : フォルテ
名前 : フォーテュネイティ・トリフォリウム
年齢 : 12歳
職業 : 無し
ストーリー進行上のキーキャラクター

記憶を失い、森で1人泣いているところをラズ達に拾われる

極度の人見知りだが、ラズにはべったり懐いており、また、ラズにも妹のように可愛がられている

ポーチにいつもお菓子を持ち歩き、親切にするとお裾分けしてくれる
甘い物が大好き

愛称 : スカイ
名前 : スカイサーズ・シルーサー
年齢 : 19歳
職業 : 盗賊(シーフ)
清く正しい熱血漢で、女性や子供にはとことん優しい

単純な性格ではあるが、意外と頭は良く、手先も器用
家事では裁縫担当

頭に巻いているクジラのバンダナは、本人のお手製

盗賊のわりに目立つ青い髪と緑のシャツが目を惹く
足を紐でぐるぐる巻きにしているのは、タイツを履くのが恥ずかしいから

愛称 : デュナ
名前 : デューナリア・シルーサー
年齢 : 22歳
職業 : 魔術師(セージ)

PT(パーティー)の頭脳担当
むしろ会計も指揮も戦闘も全部担当

一見、冷静沈着そうに見えるものの、その沸点は弟とあまり変わらない

弟を実験台に、日々怪しげなアイテムの合成に勤しむ

どんな場所でも、必要とあらば、怪しく眼鏡を輝かせることが出来るのが特徴

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