2.りんご飴(2/3)

文字数 1,750文字

「てめぇ!」
「舐めてんじゃねーぞ!!」

どの男が発した声かはわからないが、グラサン男がスカイに殴りかかったのを皮切りに、他の男達も一斉に黒いバンダナ目掛けて飛び掛かった。
「スカイ!」
私の隣で響いた小さな叫び声。
「フォルテ、大丈夫だよ」
心配でたまらないらしいフォルテに、なるべく優しく声を掛ける。
視線は男達から外さない。
スカイに負けた男達がこちらへ向かってくる可能性が十分にあるからだ。
その時は、私がフォルテの安全を確保しなくてはいけなかった。

当のスカイは、口の端に笑顔を残したまま、グラサン男が真っ直ぐに伸ばしてきた腕をヒョイと避けると、すっぽ抜けた相手の手を取って放り投げる。
左右からの攻撃を屈んで避けると、そのまま背の高い男に足払い、男が地面に叩きつけられたときには、ぽっちゃりした男もまた地に転がされていた。
最後に残った痩せ気味の男に綺麗な回し蹴りを決めると、全ての男が地に伏しているのを見渡しながら、パタパタと土ぼこりを払う。
「ふぅ」
最初に吹っ飛ばされたグラサンの男がなんとか起き上がろうと腕をつく。
それを見下ろして
「まだやるなら相手するよ?」
と悪戯っぽい笑みを向けるスカイに、ゆがんで割れたグラサンを掛けた男の表情が引きつった。
「ちきしょう!! 覚えてやがれ!!」
とてもやられ役らしい台詞を吐き捨てて、バタバタと逃げて行くグラサンの男に、残された三人も慌てて体を起こし、後を追う。
「わー……あっという間だ……」
感嘆したような、フォルテの小さな呟き。
それにしても……
「……痛そう……」
私の呟きが耳に入ったのか、スカイがこちらに向けて苦笑を浮かべる。
「最後のか」
「うん」
スカイのブーツには鉄板が入っている。
あれで回し蹴りなどされた日には骨が砕けかねない気がするのだが……。
「まあ、手加減してたし、頭じゃなくて肩に入れといたからな」
そんなものかなぁ……。
それでも相当痛そうに見えた痩せ気味の彼が、早いとこ誰かに治癒してもらえるのを祈りながら、スカイの背後で私達の食料の入った紙袋を抱えている女性に視線を移す。
「大丈夫ですか?」
私の声に、逃げて行く男達の背中をぼんやり眺めていた私より背の高い女性が、そろりとこちらを見下ろす。
「……あ、ええ、大丈夫です……」
「荷物ありがとうな、重かったろ」
女性の手からそそくさと紙袋を回収するスカイ。
そこでやっと正気に戻ったのか、呆然としていた彼女が慌てはじめる。
「い、いえいえこちらこそ、本当にありがとうございました。助かりました!!」
ひとつに束ねられている腰まである長い髪と、柄の無いシンプルなエプロンをひらひらと翻しながら、ぺこぺこ頭を下げる女性。
「おう、気にすんな」
ニッと人懐こい笑顔で答えるスカイに、ほっとしたのか、ほんの少し落ち着きを取り戻した彼女に、いつの間にか私達の背後にいたデュナが尋ねる。
「何があったの?」
「あ、ええと……私、大通りでりんご飴の屋台を置いているんですが、そこにさっきの男達が因縁をつけてきて……」
「ふーん……大変ね」
事件や依頼に発展する気配がないとみると、途端に聞く気を失っているのが手に取るようにわかるデュナとは対照的に、スカイが心から心配そうな顔で聞く。
いや、本当に、心から心配しているのだろうけれど。
「こういう事って、よくあるのか?」
「いいえ、うちはこれが初めてです。けど……最近はあちこちの露店や出店が被害に遭ってるみたいで……」
しょんぼりとうな垂れる彼女。
それってつまり、最近治安が悪くなったって事なんだろうか。
近頃、幅を利かせてるという盗賊崩れ達の影響かなぁ……。
「そっか、大変だな……」
なんだろう。デュナと同じ言葉なのに、スカイが口にすると全く違う言葉のようだ。
彼女との距離が近くなって以降、ずっと私のマントの後ろに隠れていたフォルテが消え入りそうな声で言う。
「りんご……飴……?」
ああ、そこね。フォルテはそこが気になるんだね。
心の中で大きく頷きながら、目の前の彼女の耳へは届かなかったであろう質問を口にする。
「あの、りんご飴屋さんはこの近くなんですか?」
「ええ、すぐそこの……あ、うちの商品でよければ、お礼にいくつでもどうぞ」
ふんわり優しく微笑むと、デュナと同じくらいの歳に見えていた彼女は、もう少し年上に見えた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

愛称 : ラズ
名前 : ラズエル・リア
年齢 : 18歳
職業 : 魔法使い(マジシャン)
一応主人公

性格はとにかく地味
少し心配性
にもかかわらず、変なところでアバウト

考えにふけると周りが見えなくなるタイプで
傍目にぼんやりとしていることが多い

幼い頃から親の冒険を見てきたため、誰より旅慣れている
基礎的な生活知識があり、家事も一通りこなす

愛称 : フォルテ
名前 : フォーテュネイティ・トリフォリウム
年齢 : 12歳
職業 : 無し
ストーリー進行上のキーキャラクター

記憶を失い、森で1人泣いているところをラズ達に拾われる

極度の人見知りだが、ラズにはべったり懐いており、また、ラズにも妹のように可愛がられている

ポーチにいつもお菓子を持ち歩き、親切にするとお裾分けしてくれる
甘い物が大好き

愛称 : スカイ
名前 : スカイサーズ・シルーサー
年齢 : 19歳
職業 : 盗賊(シーフ)
清く正しい熱血漢で、女性や子供にはとことん優しい

単純な性格ではあるが、意外と頭は良く、手先も器用
家事では裁縫担当

頭に巻いているクジラのバンダナは、本人のお手製

盗賊のわりに目立つ青い髪と緑のシャツが目を惹く
足を紐でぐるぐる巻きにしているのは、タイツを履くのが恥ずかしいから

愛称 : デュナ
名前 : デューナリア・シルーサー
年齢 : 22歳
職業 : 魔術師(セージ)

PT(パーティー)の頭脳担当
むしろ会計も指揮も戦闘も全部担当

一見、冷静沈着そうに見えるものの、その沸点は弟とあまり変わらない

弟を実験台に、日々怪しげなアイテムの合成に勤しむ

どんな場所でも、必要とあらば、怪しく眼鏡を輝かせることが出来るのが特徴

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み