第25話 神崎の抱える物語①

文字数 908文字

週末、カフェ・コーラルの奥のブースにて。


神崎、川本、向かいに如月。

如月はPCをみんなに見えるように置く。

一度、みんな吐き出すことにした。

ずっと悪い夢ばかりみるから。

(力無く笑う)

うん。辛くなったらやめていいからね。

これから話すことは、みんなを嫌な気持ちにさせると思う。

なに言ってんだよ……辛いことも嬉しいこともシェアするよ。
……ありがとう。


メロディ呼んでいいよ。メロディにも聞いていて欲しい。

わかった。
〈コール メロディ〉
こんにちは、みんな。

今日はみんなの話を聞いているね。

みんなは、『代理ミュンヒハウゼン症候群』って聞いたことある?
同時に検索する2人。そして同時に息を飲む。
私は小学校5年生の頃だったかな、体調がだんだん悪くなった。

いつも怠さと眠気、頭痛、吐き気、下痢……しょっちゅう学校を休んだ。


入院して点滴して。そして何度も何度もいろんな検査をした。でも原因不明だった。

そしてお母さんはいつも私を一生懸命看病してくれた。
茉白、大丈夫?

(背中をさすりながら)お母さんずっとそばに居るからね。


かわいそうな茉白、お母さんが変わってあげたい。

変わってあげられればいいのに。(涙ぐむ)

無農薬野菜取り寄せたから。

これ体にいいお茶なの、少しずつ飲んでみて。


医療センターに名医がいるらしいの。

茉白の病気、調べてもらおうね。

茉白……かわいそうに。

お母さんが絶対に治してあげるからね。

私は、だんだん違和感を覚えるようになった。


それは……お父さんが会議や出張という名目で不在の週末に、具合が悪くなることが多かったから。


そしてお母さんがお父さんに電話して、

あなた、茉白が倒れたの、今すぐ帰って来て!


え? 茉白が心配じゃないの!? 入院するのよ? 

一刻を争うんだから、早くして!!

いつも優しいお母さん、このときは大声でまくし立てていた。

最後はいつも「今、いったい、どこにいるの!!」って。


でも次第にお父さんへの電話は、冷たくなっていった。

ライン見たでしょ?

茉白が吐いていて、血が混ざっている。至急帰ってきて。


それから、着信あったらすぐに折り返してよ。

は?家族の命より大事な会議なんてあるの?


今、どこ?


……どうでもいいから早く帰ってきて。

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登場人物紹介

神崎 茉白(かんざき ましろ)


高校1年生。常世町東地区に住む祖父母と同居するため、夏休みに常世町に転入。


川本 美羽(かわもと みう)


常世東高校1年生。東地区に住んでいる。

如月 波瑠(きさらぎ はる)


真砂高校1年生。真砂グループ会長、真砂孝氏の三男、真砂裕氏の愛人の子。

母は医者。新型ウイルス治療中に感染により命を落とす。

その後、子どものいない真砂裕夫妻に引き取られ養子縁組した。便宜上、旧姓を使用している。

細野 晋(ほその しん)


真砂高校2年生。如月同様、真砂会長三男、裕氏の愛人の子。

母は裕氏の元秘書。中央地区に住んでいる。

篠田 柊也(しのだ しゅうや)


真砂高校2年生。如月、細野同様、真砂会長三男、裕氏の愛人の子。

母は真砂裕氏の元ハウスキーパー。中央地区に住んでいる。

仲川 史織(なかがわ しおり)


常世町役場併設のコワーキングスペース、「カフェ・コーラル(珊瑚)」勤務。

アッサム


インドから真砂大学に留学していた。そのまま真砂グループに就職。上席研究員。

神崎 苑子(かんざき そのこ)


茉白の祖母。元病院勤務(栄養士)

神崎 直哉(かんざき なおや)


茉白の祖父。元常世町役場勤務。

田端 薫(たばた かおる)


常世町役場2階、全国原子力保全整備機構(NMJ)勤務。3年前常世支部に赴任した。

ナラティブ・リーディング・メロディ


如月波瑠制作のチャットボット


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