第26話 神崎の抱える物語②

文字数 1,147文字

あんまりそういうことが続くから、仲町のお祖母ちゃんが……

えっと……母方のお祖母ちゃんが心配して、お父さんの居ない週末に家に泊まりに来てくれるようになった。


隣町、仲町に住んでいるから仲町のお祖母ちゃんて呼んでいて、元看護師なの。定年退職したばかり。


サバサバして元気で、カッコいいの。

私が茉白についているから、真夏(まなつ)、あんた少し横になりなさい。
お母さんはとにかく、献身的に私の看病をしていたの。

私につきっきりで寝不足になりながら。


そして周りから「大変だね」と同情されていた。

私はお母さんに心配ばっかりかけて、ダメな子だって自分を責めてばかりいた。

それでね、お祖母ちゃんと一緒の時は、私の体調はいいの。
茉白、本ばかり読んでいないで、お祖母ちゃんと一緒にテレビでも見ようか。

面白いドラマがあるんだよ。

でもお祖母ちゃんが帰ると、やっぱり週末寝込むことが多くなって、その繰り返しだった。
またお父さんが家に帰ってこなくなった。


私、寝たふりして、お母さんとお祖母ちゃんの話を聞いてしまったの。

お父さんは会社の部下とずっと不倫をしているって。

でもね、いくら鈍感な私でも、それは気がついていた。


お父さんの会社におじさん野球チームがあって、その試合を何度かお母さんと観に行ったことがあるの。

ベンチに眼鏡の真面目そうな女の人が居た。多分あの人。


実は学校帰りに何度か会ったんだ。季節のパフェご馳走してくれた。

大人しそうなのに喋ると面白い人だったな。

「逢ったことは内緒ね」って言っていたし。

お母さん、「絶対に離婚はしない」って、お祖母ちゃんに言っていた。


お祖母ちゃんは「意地張らないで帰ってきてもいいんだよ」って言ってたけど、お母さんは「離婚しない」の一点張りだった。

私の体調はその頃最悪になって、怠くて頭が痛くて吐き気がしてお腹もこわして、ずっと学校を休んでいた。
ツギハギだらけの記憶……。


……不審に思ったお祖母ちゃんが、キッチンに隠しカメラを設置したの。


画像を再生してお母さんの手元を拡大したら、私のお粥に薬を入れていて。

お祖母ちゃんが問い詰めたら、下剤、鎮痛剤、睡眠導入剤だとお母さん白状した。

もちろん医者から処方された薬以外のもの。


私の体調不良の原因は、薬の過剰摂取のせいだった

その薬は……普通に薬箱に入っていた薬。


お母さん最後は開き直って、

薬は薬でしょ?どの薬も同じじゃない。違うの?

茉白がまた具合悪くなったら大変だから、予防で飲ませておくのよ。


お母さん、なんなの、その顔。

私はそれを階段の影に隠れて聞いていた。

声が出ないようタオルで口を押さえて。心臓がバクバクしていた。

(ため息)……さっきから、まばたきが止まらないんだけど。


まばたきは、自分では隠しているつもりだったけど、みんな気づいていたんだね。

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登場人物紹介

神崎 茉白(かんざき ましろ)


高校1年生。常世町東地区に住む祖父母と同居するため、夏休みに常世町に転入。


川本 美羽(かわもと みう)


常世東高校1年生。東地区に住んでいる。

如月 波瑠(きさらぎ はる)


真砂高校1年生。真砂グループ会長、真砂孝氏の三男、真砂裕氏の愛人の子。

母は医者。新型ウイルス治療中に感染により命を落とす。

その後、子どものいない真砂裕夫妻に引き取られ養子縁組した。便宜上、旧姓を使用している。

細野 晋(ほその しん)


真砂高校2年生。如月同様、真砂会長三男、裕氏の愛人の子。

母は裕氏の元秘書。中央地区に住んでいる。

篠田 柊也(しのだ しゅうや)


真砂高校2年生。如月、細野同様、真砂会長三男、裕氏の愛人の子。

母は真砂裕氏の元ハウスキーパー。中央地区に住んでいる。

仲川 史織(なかがわ しおり)


常世町役場併設のコワーキングスペース、「カフェ・コーラル(珊瑚)」勤務。

アッサム


インドから真砂大学に留学していた。そのまま真砂グループに就職。上席研究員。

神崎 苑子(かんざき そのこ)


茉白の祖母。元病院勤務(栄養士)

神崎 直哉(かんざき なおや)


茉白の祖父。元常世町役場勤務。

田端 薫(たばた かおる)


常世町役場2階、全国原子力保全整備機構(NMJ)勤務。3年前常世支部に赴任した。

ナラティブ・リーディング・メロディ


如月波瑠制作のチャットボット


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