第6話 デジタル関所(せきしょ)

文字数 966文字

そのとき、60代の上品な老夫婦がカフェ・コーラルに入って来た。
茉白ちゃん、
待たせて悪かったね。
祖父母が迎えにきたのだ。
あ、(立ち上がる)


(みんなに向かって)

ジュースごちそうさまでした、じゃ、失礼します。

また遊びに来てね。

ここは年中無休、朝9時から夜7時まで開いているから。

またね。
茉白ちゃん、また会える?

茉白ちゃんと、もっとお話ししたいな……

メ、メロディ、どうして涙ぐんでいるの!?
わかりません。

でも茉白ちゃんを見ていると……なぜか。

神崎さん、メロディがあなたに関心を持っている。

またここに来てください。私、毎日ここに来ていますから。


ライン交換してもらえますか。

え? あ、ちょっと待ってください……はい、これ。 
波瑠ちゃんたら、研究が絡むと強引なんだから。(笑)
普段はコミュ障なのに。
祖父母はみんなに軽く会釈をして、外に出る。

3人はカフェを出た後、自動運転自動車に乗り込む。

こういう自動車、初めてかい? 

真砂タウンを走る自動車はね、全部法定速度以上は出せない仕組みで、事故が少ないんだよ。


それから、さっきお喋りしていたようだけど、もう知り合いができたのかい?
うん。同級生だった。
ここの子達は、みんな賢くていい子ばかりよ。


ね、茉白、疲れたでしょう、今晩なにが食べたい?

なんでもいいよ。
茉白、もうなんにも心配いらないからな。お祖父ちゃんとお祖母ちゃんがついている。


それに真砂タウンの防犯システムは日本一、いや世界一だ。

今年、常世駅や黒松インターに、『デジタル関所』っていう指名手配や反社、前科者の認識システムが設置されたんだ。

そうそう。犯罪歴や、ちょっとでも薬物反応がある人間は、検問で引っかかるようになったの。

簡単にはここに入れないのよ。


「君子危うきに近寄らず」ならぬ「君子危うきを寄せ付けず」ってとこかしら。

犯罪のリピート率は高いから仕方ないわよね。

最近、セクトやカルト団体の活動歴のある人間も、引っかかるようになったよ。


茉白、今度お祖父ちゃんのツテを使って、接近禁止命令対象者も、
あなた、その話は今はいいから。


ね、茉白ちゃん、ここで美味しいものいっぱい食べて、しばらくのんびりしてちょうだい。

そうだな、勉強なんか二の次で、茉白の好きなことをたくさんしたらいい。
ありがと、お祖父ちゃんとお祖母ちゃん。


私はもうすっかり元気、大丈夫よ!

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登場人物紹介

神崎 茉白(かんざき ましろ)


高校1年生。常世町東地区に住む祖父母と同居するため、夏休みに常世町に転入。


川本 美羽(かわもと みう)


常世東高校1年生。東地区に住んでいる。

如月 波瑠(きさらぎ はる)


真砂高校1年生。真砂グループ会長、真砂孝氏の三男、真砂裕氏の愛人の子。

母は医者。新型ウイルス治療中に感染により命を落とす。

その後、子どものいない真砂裕夫妻に引き取られ養子縁組した。便宜上、旧姓を使用している。

細野 晋(ほその しん)


真砂高校2年生。如月同様、真砂会長三男、裕氏の愛人の子。

母は裕氏の元秘書。中央地区に住んでいる。

篠田 柊也(しのだ しゅうや)


真砂高校2年生。如月、細野同様、真砂会長三男、裕氏の愛人の子。

母は真砂裕氏の元ハウスキーパー。中央地区に住んでいる。

仲川 史織(なかがわ しおり)


常世町役場併設のコワーキングスペース、「カフェ・コーラル(珊瑚)」勤務。

アッサム


インドから真砂大学に留学していた。そのまま真砂グループに就職。上席研究員。

神崎 苑子(かんざき そのこ)


茉白の祖母。元病院勤務(栄養士)

神崎 直哉(かんざき なおや)


茉白の祖父。元常世町役場勤務。

田端 薫(たばた かおる)


常世町役場2階、全国原子力保全整備機構(NMJ)勤務。3年前常世支部に赴任した。

ナラティブ・リーディング・メロディ


如月波瑠制作のチャットボット


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