第20話 電脳埋葬所「新ニルヴァーナ」

文字数 886文字

ドォン、ドォォォン、パラパラパラパラ……

夜空に広がる、花火の音と光。

茉白ちゃんのお母さんのお墓って、遠くにあるんでしょう?
……うん。
常世町は、翡翠ノ丘に電脳埋葬所がイメージ設定されている。


そこに故人の遺影をロードして、各自、お盆やお彼岸とかにアクセスするの。

埋葬所の名前は「新ニルヴァーナ」。

新しい涅槃(ねはん)、って意味みたい。

涅槃とは……煩悩が消滅し、心の平安が訪れた悟りの境地。

死を意味する言葉でもある。

おっ、どうした急に。
最近ちょっとこの方面に興味があって。
会長の母親が合理主義者でさ、「私の墓参りをする暇があったら仕事しろ」が末期の言葉だったという都市伝説があるんだよね。

俺達からすると、曾婆さんか。

ホットサンドのお礼に、茉白ちゃんのお母さんの遺影を、電脳埋葬所に開設しようか?


今日はお盆だし、すぐお墓参りができるように。


私も帰ってからアクセスして、母の遺影に近況報告する予定。

お母さんのお墓をつくる……
まばたきを始める神崎。
如月さん、それは常世町役場を通すのが正規ルート。

だから今から役場に埋葬開設届を出すよ。

受付時間過ぎているから、私が潜って紐付けする。すぐ終わる。

正規ルートを逸脱する、それは越権行為だ。

なんか不穏な空気になったな、という顔つきで目配せをする川本と細野。


そのとき神崎が小さな声で呟いた。

うん……お墓に入ってくれたら気持ちが落ち着くかも。
(ん?今なんて?)
わかった。足跡残さずにアクセスする。
やれやれ、如月さんは言いだしたら絶対に引かないからな。
茉白ちゃん、お母さんの名前と生年月日は?
うん。神崎 真夏(かんざき まなつ)
そして生年月日を入力し、エンターキー。


海上ではスターマイン(速射連発花火)のあと、4尺玉の大玉が夜空一面を彩った。


そして花火の轟音の中、みんなは微かなエラー音を聞く。

エラーメッセージ 《 生存中 》

(あ……)
(これって……)
…………
触れてはいけない案件に感じた、川本、細野、篠田はそのメッセージをスルーした。


如月はエラーが自分由来のミスであると思い、原因究明をはじめた。


神崎は画面を見て、激しいまばたきをするのであった。

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登場人物紹介

神崎 茉白(かんざき ましろ)


高校1年生。常世町東地区に住む祖父母と同居するため、夏休みに常世町に転入。


川本 美羽(かわもと みう)


常世東高校1年生。東地区に住んでいる。

如月 波瑠(きさらぎ はる)


真砂高校1年生。真砂グループ会長、真砂孝氏の三男、真砂裕氏の愛人の子。

母は医者。新型ウイルス治療中に感染により命を落とす。

その後、子どものいない真砂裕夫妻に引き取られ養子縁組した。便宜上、旧姓を使用している。

細野 晋(ほその しん)


真砂高校2年生。如月同様、真砂会長三男、裕氏の愛人の子。

母は裕氏の元秘書。中央地区に住んでいる。

篠田 柊也(しのだ しゅうや)


真砂高校2年生。如月、細野同様、真砂会長三男、裕氏の愛人の子。

母は真砂裕氏の元ハウスキーパー。中央地区に住んでいる。

仲川 史織(なかがわ しおり)


常世町役場併設のコワーキングスペース、「カフェ・コーラル(珊瑚)」勤務。

アッサム


インドから真砂大学に留学していた。そのまま真砂グループに就職。上席研究員。

神崎 苑子(かんざき そのこ)


茉白の祖母。元病院勤務(栄養士)

神崎 直哉(かんざき なおや)


茉白の祖父。元常世町役場勤務。

田端 薫(たばた かおる)


常世町役場2階、全国原子力保全整備機構(NMJ)勤務。3年前常世支部に赴任した。

ナラティブ・リーディング・メロディ


如月波瑠制作のチャットボット


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