第7話 ナラティブ・リーディング・メロディ

文字数 1,195文字

翌日、慣れない地下鉄でキョロキョロしながら、常世駅まで来た神崎。

午後1時35分。


カフェ・コーラルまで歩く。

外側からカフェを覗くと、観葉植物の向こうに昨日と同じメンバーが見えた。

(おそるおそる)こんにちは……
あ!!
神崎に駆け寄り、強引に手を引く如月。
ちょっとちょっと、波瑠ちゃん、茉白ちゃんに飲み物くらい取りに行かせてあげて。
はい、すみません。
今日は、シャインマスカットジュース片手に、如月の横に座る神崎。


PC画面、メロディを呼び出す如月。

あ、茉白ちゃん、また会えて嬉しいな。
かたわらの細野と川本がボソボソ会話。
メロディの人気アイドル並みのコミュニケーション能力は、如月のコミュ障を補って余りあるな。
いやいや、如月さんは自分の研究絡みだと、清々しいくらい遠慮無しですよ。
こんにちは……えっと、メロディちゃん。
覚えてくれたのね!


私の名前は、正式には「ナラティブ・リーディング・メロディ」っていうの。

ナラティブ……って、どういう意味?
「語り」って意味よ。

私は対話することで、相手の抱える物語を少しずつ読んで、整理する。

そして人生を歩きやすくする。

対話と言っても、気軽なお喋りよ。


ナラティブ・リーディングの能力を、波瑠ちゃんが私にプレゼントしてくれたの。

でね、でね、この麗しのルックスと音声は僕がプレゼントしました!
アッサムさん、如月に肩入ればかりしてる。
だってだって、アニメ『ミルキーラブリーエタニティー』の歌姫アメシスト・メロディちゃんを再現させたかったんだもん。

そのままメロディちゃんって名づけちゃった。歌も歌えるようにしたいな~

だいたいさ、ナラティブ・リーディングってなんだよ。

効果測定を数値で表せるの?

コンテストで不利なんじゃないの?

有利とか不利とかは考えたことはない。


利用者がメロディと対話することで、思考の歪み、偏り……いわゆるバイアスやダブルバインドを整理して、心的エネルギーを循環させて生きやすくする、それが目的。


手探りだけどテーマ選定に後悔はしていない。

……メロディと会えたから。

樹海のようなメンタル系分野にチャレンジした如月さんを、僕は高く評価しますよ。
じゃ、神崎さん、メロディと対話してもらえますか?


さまざまな人と対話し情報を得ることで、メロディの学習が深まるのです。

私の抱えている……物語を読む?


……明らかにする?

…………
…………
どうしたの? メロディ。


いつものように、簡単な質疑応答から。

……茉白ちゃんが、怖がっているみたい。

真っ青だし、呼吸が早くなっているし、まばたきの回数が異常値。


茉白ちゃん、メロディ、無理に読んだりはしないよ?

茉白ちゃんが嫌なことはしないから。

うん、ありがとう……
…………
如月さん、僕は今、猛烈に感動している。

メロディちゃんが学習して、ここまで対応できるようになったことに。


如月さん、学習サンプル集められなくて残念そうだけど、これすごい収穫だよ。

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登場人物紹介

神崎 茉白(かんざき ましろ)


高校1年生。常世町東地区に住む祖父母と同居するため、夏休みに常世町に転入。


川本 美羽(かわもと みう)


常世東高校1年生。東地区に住んでいる。

如月 波瑠(きさらぎ はる)


真砂高校1年生。真砂グループ会長、真砂孝氏の三男、真砂裕氏の愛人の子。

母は医者。新型ウイルス治療中に感染により命を落とす。

その後、子どものいない真砂裕夫妻に引き取られ養子縁組した。便宜上、旧姓を使用している。

細野 晋(ほその しん)


真砂高校2年生。如月同様、真砂会長三男、裕氏の愛人の子。

母は裕氏の元秘書。中央地区に住んでいる。

篠田 柊也(しのだ しゅうや)


真砂高校2年生。如月、細野同様、真砂会長三男、裕氏の愛人の子。

母は真砂裕氏の元ハウスキーパー。中央地区に住んでいる。

仲川 史織(なかがわ しおり)


常世町役場併設のコワーキングスペース、「カフェ・コーラル(珊瑚)」勤務。

アッサム


インドから真砂大学に留学していた。そのまま真砂グループに就職。上席研究員。

神崎 苑子(かんざき そのこ)


茉白の祖母。元病院勤務(栄養士)

神崎 直哉(かんざき なおや)


茉白の祖父。元常世町役場勤務。

田端 薫(たばた かおる)


常世町役場2階、全国原子力保全整備機構(NMJ)勤務。3年前常世支部に赴任した。

ナラティブ・リーディング・メロディ


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