第8話 高レベル放射性廃棄物受入れQ&A
文字数 1,266文字
ちょっと微妙な空気を感じたので、さり気なく話題を変える川本。
細野パイセンは、どんなものを制作してんの?
(いつも聞いて欲しそうだったけど、たいして興味無いからスルーしていたけど)
ん? 知りたい?
俺が制作しているチャットボットは、『高レベル放射性廃棄物受入れQ&A』だ。
どうだ、有意義だろう!
うわー、オリジナリティ、ゼロ!
ありきたりだな、子ども科学館かよ。
な、なにを言う!
会長が長年にわたり推進している高レベル放射性廃棄物受入れについて、町民の理解を深め円滑に行政を行うために必要なはずだ。
……このタイトルなら、きっと会長も悪い気はしないと思う。
ダセえ、会長へのおべんちゃらか。
マジでコバンザメ気質だな。
あ、駅前でプラカード持って反対している老人いましたよ。
核のゴミを持ち込むなって。
あれ、噂ではサクラみたい。
反対意見がなさ過ぎるのも、圧政を強いていると外部から受け取られかねないからって。
僕お手製定点モニターで観測したんだけど、あれ犬の散歩のついでだもん。折りたたみ式プラカードで。
ボランティアなのかなぁ。もちろんぜんぜん反対する気なさそうだし。
えっと……その核のゴミ? この町で受入れするんですか?
ほらほら! こういう人のために、核ゴミQ&Aチャットボットがあるんだから!!
ね、質問してみてよ。
わしはフクロウ博士。
常世町は、高レベル放射性廃棄物の地層処分候補地に名乗りを上げている。
常世町の西地区。
わしのすみかである国有地、翡翠ノ丘の外れの一画に埋められる予定。
心配ご無用。翡翠ノ丘の地下450メートルより深い岩盤に、強固に保管される。
真砂グループの技術の粋を極めた「多重バリア構築システム」により、安全性は確保。
(小声)
フクロウ博士は、語尾に「~じゃ」がつくお爺ちゃんキャラなんだよなぁ。
これちょっと語尾が固くて、キャラ設定が甘いんだよなぁ。
でも、風評被害? そういうので住民が減っちゃうんじゃないの?
それに会社、真砂グループの評判に影響はないの?
レピュテーションリスク(評判・風評リスク)のことなら、それも心配ご無用。
10年前、町長と真砂会長のタッグにより候補地に名乗りを上げてから、逆に人口は増えているし、会社の業績も上がっている。
候補地に名乗りを上げたことにより、文献・データを用いた
周辺調査に
25億円、
地層ボーリング調査に
75億円、常世町は国から
交付金を受けている。
これからは精密調査でしかるべき交付金を受ける予定。
その資金は調査や各種インフラの他、研究費に投入されている。
その研究費目当てに、世界中から優秀な研究者が集まってきているのだ。
そういえば、返済不要の奨学金が充実しているって駅で見た。
その通り。
この町では無料で好きな学問、研究に打ち込むことができる。
貧しいからと進学を断念するなんてナンセンス、ひいては国家の損失。これが会長のお考え。
全国から奨学特待生が集まってきている。
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