第33話 相対性ってこういうこと
文字数 1,471文字
真砂大学情報理工学課数理科学系の南天（なんてん）教授に会いたい。
ちょっと待って。ねえ、あなた！
なんだい、賑やかで楽しそうだね。
波瑠さんが、真砂大学の南天教授に会いたいんですって。
私はアイドルや有名人の推しのつもりで聞いたのに～
アイドルや有名人をも凌駕する、南天教授の人気を知らないとは！
千尋さんは、真砂タウンの住民とは思えませんね。
お父さん、リモートでは無く、生で南天教授を拝みたいのです。
講義に紛れ込ませて欲しいのです。隅っこでいいので。
なんだそんなことなの。
南天教授は寡黙な方だけど、なぜか熱量がバグったファンがいることで有名なんだよね。
世俗を超越しているたたずまいは、オーラがあるって評判だよ。
さっそく明日の講義を聴講してみる？
そう、そうなのです、教授の本も数式からオーラが溢れていて。
どうしよう、緊張する。
あなた、付き添ってあげなさいよ。
真砂大学の北キャンパスは碁盤の目のようになっていて、あれはあれで初見殺しといわれているんだから。
ＯＫ！
お父さん、お母さん、ありがとうございます！
（あ、お母さんって言った！）
べ、別に、約束を守っただけなんだからね！
次の日、波瑠は南天教授の講義を受講。
隅っこの席に座るつもりが、我慢できず最前列に座ってしまう。
本日の講義内容は、陰関数とラグランジュの未定乗数法の演習など。
（ほう……至福の時間だった）
講義が終わり教室を出ると、父がやって来た。
波瑠、教授に挨拶しよう。
（小声）やめてくださいっ、そんなっ、恥ずかしいから！
（お父さんは陽キャすぎる！）
南天教授～、娘の波瑠です。
南天教授の講義を受けたいって言うのでお邪魔していました。
あ、真砂先生、こんにちは。
（わわ、泣きそう）
は、は、はじめまして！
演習はいかがでしたか？
自然は無駄な動きをしないんですね！
もう、夢のような時間で、あっという間で、体育の時間は１分が１時間くらいに感じるのに、ああ、相対性ってこういうことか！体感しました。最高でした。
（早口）
実は私、暗算が苦手だし、１＋１は考え出すとドツボに嵌まってしまうし、算数が苦手だったんです。
でも教授のテキストに出会って、あまりの美しさに感動して……
今は教授と数学が大好きです！
（あっ）（私ったら勢いでなんてことを口走っているの）（焦り）
１＋１は標数がわからなければ答えられないですね。
ですよね！あと何進法かも定義してもらわないと。
私も暗算は苦手です。たまに右左も怪しくなる。（微笑み）
今日は１２月１７日、１２１７は素数なので頑張りましょうね。
はい！
素数なので頑張ります！！
波瑠、頑張れ！
夜の食卓にて。
お父さん、お母さん、今日は一生の思い出ができました。
明日からなんでもやります。トイレ掃除、洗濯、皿洗い、雑巾がけ、なんでもやります。
なんでも言いつけてください。
？？？
なに言ってんの？
優秀なメイドさんがいるんだから、波瑠さんなんてお呼びじゃないわよ。
それに皿洗いや雑巾がけって……今どき手動なんてドラマの中だけよ。
波瑠さんは、波瑠さんにしかできないことをやりなさい。
あ……うん。
それより明日は、波瑠さんに似合う可愛いお洋服買いに行くわよ。
そしてクリスマスは、２．５次元シアターで観劇だから空けておくこと、いいわね！
え？なんだって？
チケットが取れたのよ、『シンデレラの匙加減』！
（家に居るとお母さんに振り回されるな）
（数学する時間が減るのはキツいな）
家に居ると、千尋ママのペースに巻き込まれると感じた波瑠。
年明け、図書館の帰りに「カフェ・コーラル」を見つけ、隠れ家として避難するようになったのであった。
