残念系上司と残念系部下の仁義なき争い(不毛) 3

文字数 1,575文字

 ケテルを面会用の応接室に放り込み、とりあえず一息。
 本来の補佐ならば応接室の中まで付き添って当然だしカインにもそれは許されているのだが、来客を前にしても普段通りに振る舞うケテルを前にカインがツッコミを我慢するのは相当に苦行であるので、最近は義務でないことを理由に遠慮している。
 どうせあの完璧超人は何の準備もなく面会に放り込まれようがどうにでもするから問題ないし。
 しかもあの性格悪、カインのこういう性格を見越してわざとそういう言動をしては、客の前で我慢をしたり耐えかねて突っ込んだりと忙しいカインを見て面白がっているのだ。そんなタチの悪い遊びに真面目に付き合う必要などないだろう。どうせ同席したって内容は小難しくてわからないし、しなくても面会相手にあのセフィラが害される可能性は太陽が1年以内に燃え尽きるよりも低い。

 セフィラとはそういう存在だ。
 解析士の頂点。この世の中枢の一角を成すもの。生まれながらに人を超えた人。あらゆる解析を自在に使いこなす化け物。

 まぁそんな発言をすれば「貴様に言われたくはないな」とケテルは偉そうに鼻で嗤いそうだが。
「物珍しさってやつだろうけどさぁ」
 セフィラ用の職務室に戻って独言る。
 現在のカインの立ち位置はケテル専属補佐であり、解析士としてこの本殿で他にするべき仕事が何一つない身なので、待機する場所はセフィラ用の職務室しかない。というか実のところカインは解析士未満の出来損ないなので、補佐という職位以外で自分を証明する身分など無かったりする。
 目が見えないだけで、勉強すれば十分に解析士の試験合格は見込めるだろうアベルや、それこそ人並外れた知能の高さに恵まれているセトとは異なり、ヤーフェの試験基準でカインが解析士になる可能性はない。

 何しろ、カインは普通の解析は何も使えないのだ。

 努力や知識の問題ではない。カイン自身の事情により、普通に解析を見ることや処理すること、まして実行することは出来ない。
 出来ることは、壊すだけ。
 どんな素晴らしい解析であったとしても、カインはそうする意志を持って触れれば、或いは明確に害意を持って放たれたものがカインに触れれば、それを崩壊させることができる。
 例えセフィラのケテルのものであっても同様で、ついさっきアホみたいに高い場所に登っていたケテルを落としたのもソレである。
 どういう構造で発動してるか全然わかってないが、カインが壊したいと思って触れれば、或いはカインを狙って放たれた解析は、手に落ちた雪が溶けるより早く壊れる。
 この特異性のせいでケテルに捕まったと言っても良いだろう。
「あいつも何が楽しいんかね?」
 壊すしか能がない自分などを補佐において。
 消えていた過去の記憶を、街の記録からわざわざ掘り起こしてくださって、そこで見つかった弟を引き取って面倒見る事にまで協力してくれて。だから良いやつかと思えば、毎日毎日懲りもせず悪態ついたり迷惑かけたり暴虐の限りを尽くす。かと思えば、ソレに対して正面から文句を言う自分を追い出すこともなくそばに置いている。
 何を考えているのか全くわからない。
 カインという存在を側に置く利点は、ケテルにはほぼない筈だ。補佐としての事務能力は底辺だし、ただ壊すだけならセフィラであるケテルだって簡単に実行できる。
 他より優れてるのはせいぜい、隙を見てすぐサボるケテルを高確率で引っ張り出せる事くらいしかない。
 でもそれだって、ケテルからすれば利点かどうか怪しいのに。
 人事権を持つあのセフィラ様は、補佐の地位を出来損ないに奪われた周囲の不満も気にせずにカインを使い続けている。
「わっかんねーの」
 部屋の片隅、毎日の待機の間に、せめて足りない部分の勉強ができるように勝手に作った自分用のスペースに座り込んで、カインは深々ため息をついた。
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