傲慢が先か力が先か 2
文字数 1,594文字
カインという名の青年がここ、ロヒムの解析本殿に来たのはつい最近の話である。
この国の多くの者たち(特に解析士)がこぞって働きたがる筆頭の場所であるその場所にいるのは、残念ながら彼の意志ではない。正しく言えば最初に足を踏み入れたのは、ここで一番偉い誰かさんに誘拐されて来たからである。そうでなければ一生縁などない筈の、エリート世界だ。
ものすごく不本意にやって来たカインが今でも留まっているのは、自分はまぁともかくとして、あの日まで行方不明どころか諸事情で存在すら思い出せなかった弟までがしれっと翌日に呼び寄せられた上に、弟の為に優れた環境を整えられたせいである。
カインだけならいつだって飛び出すのは平気だった。
何かに縛られ生きるくらいならば貧乏でも自由がいいと今でも思っている。
けれど目の不自由な弟はそうはいかないと、ここまで孤児あがりとして一人街で生きてきた彼だからこそよく知っていた。弟だって、再会するまでの孤児院で、あまり良い扱いは受けていなかったという……アベルは詳細を話したがらないが、アベルと一緒に引き取ったセトから、カインは実際を、もう聞いてしまったから。
今の生活環境よりも良いものを、カインだけでは到底弟に与えられない。
見兼ねて一緒に引き取ったセトのこともある。
結局カインは自分の意志で、この場所に留まることを「選ばされた」。
何から何まで相手の思惑の上だと思うと腹立たしいが、こんな環境をぽんと用意できるだけの存在だ。想像を絶する性格破綻者であることを加味しても、一応会話が可能なだけ救いがあるし、解析の才能が開花してきた弟たちのことを思えば、教育環境も完璧なここで暮らすのは悪くない選択だった。
自分のことだけ除けば。
「とりあえずそっから降りてこい! ついでに壊したとこ全部直してこい!」
「断る」
「なんでだっ!」
「気が乗らん」
現在のカインの役目は、セフィラであるケテルの補佐役である。
人の好き嫌いが極端に激しい……いやそんな可愛げのある表現は間違っていた。とにかく我儘と傲慢だけで人格が構成されてるようなこのセフィラに、それでも一番偉い解析士だし万が一をと考えて(カインからすればこれに万が一とか世界が滅ぶ話だが)周囲はその動向を把握するためにも補佐役を置こうとするし、その役職を希望する者は男女関係なく後を絶えないし、実際今まで何十名も就任してきているのだ。
が、カインまでの前任者全員、ケテル本人によりその地位から解雇され続けていたらしい。
長くて三日、最短1秒の解任劇を毎度懲りずにやっていたと後から知ったカイン的には、自分もその最長記録程度で役目が終わって頂きたかった訳だが……悲しいかな、ケテルに無理やり据え置かれたこの役職についてからここまで、最長記録を延々更新し続けもう数ヶ月だ。
解雇の権利があるのはケテルだけ。
毎日これだけ言い争って喧嘩してるのに一向に解雇してくださらないセフィラ様は、今日も我儘ぶっこいてるけれどカインを解雇してくれる様子だけは無いのである。そりゃまぁ弟たちの件を思うと、今更解雇されたらちょっと困りそうなのだが。
「気分で仕事すんなっ! つーかお前はいつでも仕事は気が乗らねーだろが!」
「当たり前だろう仕事相手に気分が乗る程堕ちておらん」
「いやある意味底辺だからな、それ社会人としては発言が底辺だからな!?」
それが通用すんなら自分だってこの仕事今すぐ放棄したい。投げ出したい。が、一応弟もいる手前、そんな汚れた大人の意見を認めるわけにはいかないのである。
まったく、ああ言えばこう言う……一向に降りてくる気配もない上司を前に、カインはそろそろ我慢も限界だった。
元から短気なのだ。
どんなに相手がお偉いさんだろうが、同じ歳の野郎に延々中身のない我儘言われ続ければ、そりゃもう薄い理性もあっさり剥がれるんである。
この国の多くの者たち(特に解析士)がこぞって働きたがる筆頭の場所であるその場所にいるのは、残念ながら彼の意志ではない。正しく言えば最初に足を踏み入れたのは、ここで一番偉い誰かさんに誘拐されて来たからである。そうでなければ一生縁などない筈の、エリート世界だ。
ものすごく不本意にやって来たカインが今でも留まっているのは、自分はまぁともかくとして、あの日まで行方不明どころか諸事情で存在すら思い出せなかった弟までがしれっと翌日に呼び寄せられた上に、弟の為に優れた環境を整えられたせいである。
カインだけならいつだって飛び出すのは平気だった。
何かに縛られ生きるくらいならば貧乏でも自由がいいと今でも思っている。
けれど目の不自由な弟はそうはいかないと、ここまで孤児あがりとして一人街で生きてきた彼だからこそよく知っていた。弟だって、再会するまでの孤児院で、あまり良い扱いは受けていなかったという……アベルは詳細を話したがらないが、アベルと一緒に引き取ったセトから、カインは実際を、もう聞いてしまったから。
今の生活環境よりも良いものを、カインだけでは到底弟に与えられない。
見兼ねて一緒に引き取ったセトのこともある。
結局カインは自分の意志で、この場所に留まることを「選ばされた」。
何から何まで相手の思惑の上だと思うと腹立たしいが、こんな環境をぽんと用意できるだけの存在だ。想像を絶する性格破綻者であることを加味しても、一応会話が可能なだけ救いがあるし、解析の才能が開花してきた弟たちのことを思えば、教育環境も完璧なここで暮らすのは悪くない選択だった。
自分のことだけ除けば。
「とりあえずそっから降りてこい! ついでに壊したとこ全部直してこい!」
「断る」
「なんでだっ!」
「気が乗らん」
現在のカインの役目は、セフィラであるケテルの補佐役である。
人の好き嫌いが極端に激しい……いやそんな可愛げのある表現は間違っていた。とにかく我儘と傲慢だけで人格が構成されてるようなこのセフィラに、それでも一番偉い解析士だし万が一をと考えて(カインからすればこれに万が一とか世界が滅ぶ話だが)周囲はその動向を把握するためにも補佐役を置こうとするし、その役職を希望する者は男女関係なく後を絶えないし、実際今まで何十名も就任してきているのだ。
が、カインまでの前任者全員、ケテル本人によりその地位から解雇され続けていたらしい。
長くて三日、最短1秒の解任劇を毎度懲りずにやっていたと後から知ったカイン的には、自分もその最長記録程度で役目が終わって頂きたかった訳だが……悲しいかな、ケテルに無理やり据え置かれたこの役職についてからここまで、最長記録を延々更新し続けもう数ヶ月だ。
解雇の権利があるのはケテルだけ。
毎日これだけ言い争って喧嘩してるのに一向に解雇してくださらないセフィラ様は、今日も我儘ぶっこいてるけれどカインを解雇してくれる様子だけは無いのである。そりゃまぁ弟たちの件を思うと、今更解雇されたらちょっと困りそうなのだが。
「気分で仕事すんなっ! つーかお前はいつでも仕事は気が乗らねーだろが!」
「当たり前だろう仕事相手に気分が乗る程堕ちておらん」
「いやある意味底辺だからな、それ社会人としては発言が底辺だからな!?」
それが通用すんなら自分だってこの仕事今すぐ放棄したい。投げ出したい。が、一応弟もいる手前、そんな汚れた大人の意見を認めるわけにはいかないのである。
まったく、ああ言えばこう言う……一向に降りてくる気配もない上司を前に、カインはそろそろ我慢も限界だった。
元から短気なのだ。
どんなに相手がお偉いさんだろうが、同じ歳の野郎に延々中身のない我儘言われ続ければ、そりゃもう薄い理性もあっさり剥がれるんである。