我儘な奴は妥協を知らない 1

文字数 1,392文字

 そこまで思い出しつつ話したはいいけれど、カイン自身は結局何がどうなって何をされたのかが、思い出してすら理解出来そうにない。なんとなくわかるのは、なんか解析が絡む高度な話っぽいなということだけだ。
 これ以上説明するような出来事もなく、カインは話を締める。
「その後はいつの間にか現実に戻ってて病院のベッドの上、後はお前も知ってる通りだよ」
 病院で目覚めたカインは弟を含めた諸々を忘れてて、忘れたまま退院してしまい保護される年齢でもなかったから身寄りがないなりにどうにか日々を暮らして。解析はすっかり見えなくなってて、でも何故か知らないが自分が触れる解析全部を消すことが出来るようになった。
 なんとなく不良の世界に足を踏み入れ、特徴から消し屋と呼ばれるようになりそれで金を得て暮らしてて。

 で、ケテルに見つかって。
 街中巻き込むような逃亡劇の果てに取っ捕まって、無断であれこれ調べられた結果弟の所在が判明して、再会して思い出して。

 今に至る。
「その青い髪の男に関しては他に何を覚えている?」
「他って言われてもなぁ……あとは名前くらいしか」
 去る間際、向こうが呆れつつ教えてくれた。普通名前くらい訊くだろ、だとか言いながら。
「いいから言え」
「レイ、っつってた」
 詰問されるままに答えれば、再度ケテルが溜息をついた。そりゃもう大袈裟に。
 自分は馬鹿かもしれないが、馬鹿にされるのが平気とは限らない。そんな態度を取るのであれば、今の話でこのセフィラ様はよほど色々と理解したんだろうな、と思いつつカインは逆に問いかける。
「そんで、今の話でなんかわかったか?」
「大体全部理解した」
「え、マジでか」
 どういうことだ、と問いかけようとしたけれど、相手の性格を思い出してカインはそれを飲み込んだ。
 この存在が、何も考えず反射的に質問した相手に対しご丁寧にご高説を垂れてくださるほどお優しい存在だと誤認した記憶は一切ない。それをそのまま口にしたところで、そりゃもう罵倒と共に一笑されて終わる可能性の方が上だ。それならまだマシで、用は終わったとばかり話を切られて部屋を追い出される可能性も高い。

 そこまで考えて、ふっとカインは今の時間が気になって時計を見た。
 部屋に入ってそれなりの時間が経っている。
 残してきた二人の弟が気になるし、やはり細々した説明を受ける時間などないかもしれない。それにどうせ聞いたって理解出来なさそうである。あの頃の自分がわからなかったことは今の自分もやっぱりわからないし、それならこの上司の説教のような説明を聞くより弟たちを可愛がる時間の方が有益だろう。

 ただ一個だけ。
 弟たちがいるからこそ、確認しておかないといけないことがあった。
「なぁケテル」
「何だ」
「これで俺は用なしか?」
 この誰にも敬われる存在が自分を気にかける理由は、特異性だけだと認識している。
 今の話で大体分かったと言うからには、特異性の部分もほぼ理解した筈で、それはケテルの中にあったカインへの疑問が解決したという事でもあるだろう。謎からくる興味ならば、この話で解決して消えている筈だ。
 だから、この場で退職を促されたとして、カインは不思議に思わない。
 むしろそうなる方が自然だとすら思う。
 縋る気はない。その場合はまだ幼い弟たちの身の振り方を守ることと、次の職を探さないとなということだけ考えつつ問いかけていた。
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