残念系上司と残念系部下の仁義なき争い(不毛) 2

文字数 1,467文字

 ケテルに捕まった後、なんだかんだあってカインは現在ケテルの補佐に収まっている。
 一応、辛うじて、不服ではあるが、自分の意志である。
 セフィラの補佐といえば多くの上級解析士が希望する最上位職だが、今のケテルには他に補佐がいない。
 単に技能的な問題で補佐を選出できていない、ならばまだ良かったのだが、実態はケテルのわがままによるものである。激しく人の選り好みが激しいこのセフィラ様は、今までの補佐を長くて数日、最短一瞬で解雇や異動させてきた、らしい。
 そこにカインを据えたのはケテル本人だが、過去だって誰も長く雇用されたことがない。
 それならばカインだって長く務まるわけがない筈だし、それ以前にカインは上級解析士ですらない街の人間である。セフィラの補佐を出来るほどの能力がないのは本人含め誰もが解っていた。だからケテルの過去のわがままの延長線で、今回も気まぐれだろう……と。
 最初こそ全員がそう思ってたのに、カインは現在、今代ケテルの補佐在任最長記録更新真っ最中。
 日頃どんな態度をとっていても解雇される様子が無いままである。
 解雇されない限りは職務を全うしなければならない。
 カインの自由意志など他全員が無視できるくらいには、この国、そして解析本殿におけるセフィラの決定は重いから、ケテルが心変わりしない限りは現状が続く。カインも、自ら辞表を叩きつけるには現状の職が少々恵まれている為、弟たちを養う為だと思いつつ我慢をする日々だ。
 当たり前といえば当たり前に払われる補佐の給与の額に震え上がりつつ、能力がないなりに、真面目にカインは働いている。
「とっとと行くぞ! もう時間がねぇよ」
 が、真面目に働くことと、相手に敬意を払うことは別問題。
「ふん。会いたいのは相手の勝手だろう。待たせておけばいいのだ」
「何ヶ月も前から予約入れてもらってそういうわけにいくかーっ!」
 カインだって雇われた最初の数時間くらいは一応社会人として敬語も使い接していた。けれど、この傍若無人で自分勝手な男を前にそんなものは何の意味もないと悟った後は、ほぼ本音だけで構成した発言をしている。っていうかこの男相手に唯々諾々と接していたら、日常業務は何一つ進まない。
 雇用契約にケテルへの丁寧な言葉遣いや態度などは記載されてなかったのだから問題ないだろう。
 なにせ出会ったあの日にあの場所にいたのすら、本殿から逃走して街でふらっと遊んでたというようなお偉いさんである。目を離せば逃亡するしサボるし、その割に態度は常に大きい。悪いことをしているつもりすら無さそうだった。

 とりあえず貰ってる給料分くらいはこいつに真面目に仕事させるのが自分の役目だとカインは割り切っている。

 逃げりゃ追うし探し出すし引き摺り出す。
 サボってれば怒鳴って働かせ。
 解析を使って逃げようとするなら徹底的に破壊する。

 こっちのやり方に文句があるならいつでも解雇しろよと思いつつ補佐をしている今現在だが、カインに対しあーだこーだと偉そうに苦情や屁理屈、文句は並べつつも、ケテルから解雇してくる様子は全く無い。
 もしかしてこいつ実は被虐趣味なんじゃねーか。
 なんてことすら最近は思い始め……。
「おい貴様、今妙なことを考えてなかったか?」
「いやまっさかー。そんなことより早く部屋戻るぞー」
 いらんとこで勘の鋭いケテルの背中を一回叩き、カインは再度その腕をとって走り出す。
 別に自分とほぼ同年齢である野郎とお手手繋いで歩くような寒い趣味はない。それでも掴んだ腕を離さなかったのは、単なる逃走防止だった。
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