夢のような過去と非現実のような今と 2
文字数 1,573文字
その前に、とケテルは楽園で起こった全部の説明を求めてきた。
特に隠す気もないので、ここまできてもまだ実感のない記憶を辿って思い出す。
恩を売ると、青い髪の男は言った。
詳細はわからないが助けてもらったらしいので、買えるだけ買うとカインは答えた。
どうせ死んでいたかもしれないのだ、運良く続いた残りの人生を使って恩返しも悪くない。
そんなカインに、相手は「よしわかった」と言うと、恩を売る経緯の説明から始めてくれる。
「まずな。前提として、ここに来るまでにお前の中身、結構損傷しちゃってんのな」
ぴし、と長すぎる袖のせいで見えない手を使ってこちらを示し、男は言う。
「人間は、肉体と精神と魂で構成されてる生き物なんだが、解析っつーのはその全部に絡むもんだ。そんで、物質である肉体はまだしも、精神と魂なんてほぼ解析と同じ領域で構成してるようなモンだ。で、この3つを繋げてるものも解析っていうか、極論言えば肉体含め全部解析で表現ができる。解析不能な奴以外の全員が当たり前に解析を見て使えるのもそのせいなんだけど」
「俺頭良くないから、もちょっと簡単に言ってくんね?」
教えてくれようとしている所申し訳ないと思うが、わからないものは仕方ない。
わかったふりして頷くのは簡単だったが、この相手にそれはしたくなかった。ので素直に伝えれば、特に気にした様子もなく相手は話を続けてくれる。
「0除算っつー処理をした結果、お前の精神と魂の一部が壊れた。っつーか今だって壊れ続けてるけど、俺が止めてる。状態としては、大黒柱がぽっきり折れた家って感じ。放っときゃ自然に自分で潰れるだけ。わかる?」
「ヤバいってこと? 死ぬ?」
「死ぬ。確実に死ぬ」
「お〜ぅ」
気持ち良いほど断言されて、感嘆しか出てこない。
決して適当に受け取ってるわけでも、ましてバカにしたいわけでもなかったが、己自身のどうしようもなく絶望的状況なんて、ちゃらけた態度以外でどう受け止めれば良いのかわからなかった。
重く受け止めたからこそ軽い反応しかできない時もある。
人によってそれは逃避だと詰るのかもしれない。
「って訳でな? 壊れたものはもうしゃーないとして、これ以上壊れないようにどうにかしてやろうって俺は思ってんの」
だが目の前の男は、そんなことはしなかった。普通に会話を続けてくるものだから、カインもそれに応える。
「なるほど。そりゃもう是非に」
「どういう方法でもいいか?」
「任せる任せる。どうせ聞いたってわかんねーし俺」
「ここに来るまでに壊れた部分を分析したが、今回だと主に肉体に入ってるログ、つまり記憶だ。といっても大半は連結が解けてばらけてるだけだから、きっかけさえありゃいくつかは思い出せるだろう。全部の保証はないけど。精神と魂は一部損傷しちゃいるが、これはほぼ自然回復可能な範囲だからまぁいいだろ。体はさっき言った通りな」
「おう。よろしく」
壊れていると言われても何がどうなっているかカインにはわからない。
それは今のカインがすでに壊れた後のカインでしかないからなのだろう。ここに来る前とあまり違いがないように思うのは、相手が言うところの精神だか魂だか(この違いもよくわからないが)の方があまり壊れてなかったからかもしれない。
記憶が壊れてるようだが、きっかけがあればどうにかなるらしいから、まぁいいとする。
仮に、いますぐ思い出せない何かが永遠に思い出せなかったとして、大きな問題があるとは思えなかった。
どうせ元よりそこまで記憶力が良かったわけではない……筈だったし。
というわけで素直に頷くばかりのカインに、相手は長すぎる袖の余りをぶらぶらと揺らしつつピシリと眼前につきつけてきた。手が出ているなら指さされている、みたいな状態に違いない。
「つーわけで。お前の中にアインのパスを入れるぜ」
特に隠す気もないので、ここまできてもまだ実感のない記憶を辿って思い出す。
恩を売ると、青い髪の男は言った。
詳細はわからないが助けてもらったらしいので、買えるだけ買うとカインは答えた。
どうせ死んでいたかもしれないのだ、運良く続いた残りの人生を使って恩返しも悪くない。
そんなカインに、相手は「よしわかった」と言うと、恩を売る経緯の説明から始めてくれる。
「まずな。前提として、ここに来るまでにお前の中身、結構損傷しちゃってんのな」
ぴし、と長すぎる袖のせいで見えない手を使ってこちらを示し、男は言う。
「人間は、肉体と精神と魂で構成されてる生き物なんだが、解析っつーのはその全部に絡むもんだ。そんで、物質である肉体はまだしも、精神と魂なんてほぼ解析と同じ領域で構成してるようなモンだ。で、この3つを繋げてるものも解析っていうか、極論言えば肉体含め全部解析で表現ができる。解析不能な奴以外の全員が当たり前に解析を見て使えるのもそのせいなんだけど」
「俺頭良くないから、もちょっと簡単に言ってくんね?」
教えてくれようとしている所申し訳ないと思うが、わからないものは仕方ない。
わかったふりして頷くのは簡単だったが、この相手にそれはしたくなかった。ので素直に伝えれば、特に気にした様子もなく相手は話を続けてくれる。
「0除算っつー処理をした結果、お前の精神と魂の一部が壊れた。っつーか今だって壊れ続けてるけど、俺が止めてる。状態としては、大黒柱がぽっきり折れた家って感じ。放っときゃ自然に自分で潰れるだけ。わかる?」
「ヤバいってこと? 死ぬ?」
「死ぬ。確実に死ぬ」
「お〜ぅ」
気持ち良いほど断言されて、感嘆しか出てこない。
決して適当に受け取ってるわけでも、ましてバカにしたいわけでもなかったが、己自身のどうしようもなく絶望的状況なんて、ちゃらけた態度以外でどう受け止めれば良いのかわからなかった。
重く受け止めたからこそ軽い反応しかできない時もある。
人によってそれは逃避だと詰るのかもしれない。
「って訳でな? 壊れたものはもうしゃーないとして、これ以上壊れないようにどうにかしてやろうって俺は思ってんの」
だが目の前の男は、そんなことはしなかった。普通に会話を続けてくるものだから、カインもそれに応える。
「なるほど。そりゃもう是非に」
「どういう方法でもいいか?」
「任せる任せる。どうせ聞いたってわかんねーし俺」
「ここに来るまでに壊れた部分を分析したが、今回だと主に肉体に入ってるログ、つまり記憶だ。といっても大半は連結が解けてばらけてるだけだから、きっかけさえありゃいくつかは思い出せるだろう。全部の保証はないけど。精神と魂は一部損傷しちゃいるが、これはほぼ自然回復可能な範囲だからまぁいいだろ。体はさっき言った通りな」
「おう。よろしく」
壊れていると言われても何がどうなっているかカインにはわからない。
それは今のカインがすでに壊れた後のカインでしかないからなのだろう。ここに来る前とあまり違いがないように思うのは、相手が言うところの精神だか魂だか(この違いもよくわからないが)の方があまり壊れてなかったからかもしれない。
記憶が壊れてるようだが、きっかけがあればどうにかなるらしいから、まぁいいとする。
仮に、いますぐ思い出せない何かが永遠に思い出せなかったとして、大きな問題があるとは思えなかった。
どうせ元よりそこまで記憶力が良かったわけではない……筈だったし。
というわけで素直に頷くばかりのカインに、相手は長すぎる袖の余りをぶらぶらと揺らしつつピシリと眼前につきつけてきた。手が出ているなら指さされている、みたいな状態に違いない。
「つーわけで。お前の中にアインのパスを入れるぜ」