傲慢が先か力が先か 1

文字数 1,591文字

「アホケテルーーーーーーっ! 降りて来やがれーーーーーーーっ!!」
 とりあえず空の上に向かって叫んでみたけど、その姿があんまり遠くに見えるので、この声が届いているかは怪しい。

 ……と、普通なら思うだろう。

 だが残念、叫んでる先の相手は普通と対極に座す化け物である。
 もっと言えばさっきからガンガン建物破壊しては嫌がらせしてたご本人様である。
 まさかこの声程度が届かないなどあり得ない。それで反応がないなど無視以外はまず起こりえないが、青年は残念かつ不本意なことに相手の性格はよーく知っていた。
 アレは、ケテルという名を冠するセフィラ様は、例えそれが世界の反対側だろうが、自分の悪口を無視できるほど人格者ではないのである。
「貴様にアホ呼ばわりされるほど墜ちておらんわ無能が!」
 ほれこの通り。
 やかましくも器用に声だけを届けるという所業を、態々やってくださる訳で。これが解析士の頂点の一角であるという事実に、今日も順調に頭が痛い。
 まさに能力の無駄遣い。
 だが、とりあえず返事があったので普通に会話を続ける。
「仕事をサボるような奴こそ無能って言うんだよ!」
「愚か者め。オレは最短で最高の効率の仕事をしている。余る時間をどう過ごそうがオレの自由だ」
「ここは自由勤務じゃねぇし今日も面会の予約が入ってんだろが!」
「それこそ時間の無駄だ。名前も覚えぬ相手に会う時間など設定するな無能め」
「そういう訳にいくかテメェはセフィラだろうがあああ!」
 こっちだってこんな、口を開けば罵詈雑言しか出てこないような人格破綻者を、何も知らない(どころかセフィラというだけで神聖視してたりする)無邪気な方々に会わせたくなどない。
 が、どんな中身でもセフィラという事実は変わらず、死ぬまで退任もありえない存在となれば、お偉いさんがこの解析本殿の正規ルートから面会請求を出してしかるべき審査を通れば、会わせるしかないんである。

 全く何をもってセフィラというのは選抜されているのか。
 まさか性格か、人類稀に見る性格破綻者が選ばれてんのか、と青年は内心思ってたりするが、口には出さない。思うだけなら無罪、の筈だし。

 この世の解析士の頂点にして世界の中枢。
 その直下の部下的なものがセフィラであり、それは世界各地に散らばって生まれるものだという。
 生まれながらに絶対にして無二たる特別な名前を持ち、解析士としての圧倒的処理力や容量、他諸々を持っている特別な存在。
 ケテルはそんなセフィラの中で「第1の存在」であるらしい。
 セフィラは冠する数字をもって順位は決まってないようだが、そんなもん関係なく態度や性格は確実に、一番悪そうだと青年は思っている。他のセフィラにはまだ会ったことがないが。

 きっとあれだ。セフィラは生まれながらに特別な存在だし、ケテルだって生まれながらに周囲に大事にされ特別扱いされまくった果てに達したのだろう傲慢なので、他も似たようなもんに違いない。それでもきっと、特にケテルがおかしいとしたら、本人の生まれながらの性格ってことで。
 ……あ、やっぱりケテル本人の問題じゃねーか。
「おいカイン。貴様今くだらぬことを考えていただろう」
 なんとなく思考が散らばっていたら、低く唸るようなケテルの声が届く。
 こういうタイプの例に漏れず、ケテルも自分自身に対する悪口とか嫌味の気配には敏感である。っていうか思考までたどろうとするんじゃねぇよ化け物め。と、カインと呼ばれた彼は思いつつ即座に反論した。
「俺の頭が良くねーのはいつものことだろが! 頭良くねーんだからくだらなくても仕方ねーだろ!!」
「うむそれはそうだが」


「……兄ちゃん、それなんか違う」
 カインは自信満々に反論し、しかもなんかケテルも納得しているが、そばでずっと会話を聞いていたアベルだけがぽつんと指摘した。
 残念ながらカインの耳には届かなかったが。
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