傲慢が先か力が先か 3
文字数 1,456文字
とりあえずあのアホを落とさないことには話が進まない。
既に「降ろす」でなく「落とす」という思考になっているのは気にせず、カインはずっと隣に立っている弟に問いかける。
「あれやっぱ解析なんだろ? 俺には見えないけど」
「そうだよ」
諸事情で、解析不能ではないものの解析の詳細を分析するための視界がないカインは、解析不能と同じようにしか世界が見えていない。普通の人間が見えている解析の細かい部分は、今はもう全く見えてないから、今ケテルが宙に浮いているのも「ただポツンと浮いている」ようにしか見えない。
仮にケテルが他の者たちに見えないように細工していれば他の者もカインと同じように見えている筈だ。
が、そこにおいてカインの弟アベルは、目が弱いせいか通常の人よりも繊細で鋭い感覚で解析を捉えているらしい。
この本殿にいる上級解析士たちよりもいい「目」を持っているというのは、他ならぬ本殿の主ケテルのお墨付きなので間違いないだろう。世辞を言うような可愛げのある性格じゃないなら余計だ。
「俺の届く範囲に、なんつーか、土台的なもんはある?」
流石に何の土台もなく浮いてはないだろうと適当に当たりをつけて問えば、アベルは中庭を指差した。
「浮くための土台なら、そこの中庭全体に敷かれてるよ。中庭に入ればどこでも『内部』だと思う」
「おーそっかそっか」
見えなくても解析は存在する。
カインはあまり詳しくないが、世界には物質(普通の視界で見られるもの)とは別の膜のような領域が物質と混じって重なり合うように存在してて、解析で使っている大事なものはそこに「ある」らしい。
結果として解析が物質に干渉してるのも、重なり合った部分から動かしてる、というものらしい。
物質と解析の領域は切り離せない「同一のもの」。
人間が脳内でどこまでも無限の思考ができるみたいな感じで、物質の中で解析の領域は存在してるんだという。
物質が脳そのものなら解析は思考の中身。
形はないけど、それを元にして現実へと意志を形にし物質すら変える。
と、まぁ。
この辺全部、ケテルからの受け売りなのでカインはざっくりとしか理解していない。
そもそも「ほぼ解析が使えないし見えない」カインは、今更解析をどう説明されてもいまいちわからないのだ。
わかるのは自分が可能な範囲だけ。
元々単体では触れも出来ないようなモノに対して、知るために必要な感覚すら無くしてしまえば、そんなものはもう無いも同じである。知識を与えられても実感が伴わないから、いまひとつ頭に残らない。そんなカインをケテルが馬鹿だと言うのもしょうがない話である。
が、そういうあれこれは、今は置いておいて。
「この辺? ある?」
弟の言葉に従い中庭に出たカインは、何もないように見える空間に適当に手を伸ばしてみる。
やっぱり何も触れることはない。庭とはいえ広いせいで、立ち止まった近くには木もないし花もないから、周りから見れば単に空気中に手を差し出してる怪しい男だ。まぁ別に今更自分が周囲にどう見られたって気にしないが。
それより今はあのアホをどうにかしないと。
「あるよ。そのへんいっぱい」
「よっしゃ」
頼もしい弟の保証を貰って、カインは拳を握った。
別にこれからすることで力を篭める必要は全くないのだが……こういうのは気分である。
すぅっと大きく息を飲み込んで、何もないように見える場所に思いっきり拳を振り切った。
それと同時。
「落ちろアホケテルーーーーーーーーーーーっ!」
カインの叫びが本殿中に響き渡った。
既に「降ろす」でなく「落とす」という思考になっているのは気にせず、カインはずっと隣に立っている弟に問いかける。
「あれやっぱ解析なんだろ? 俺には見えないけど」
「そうだよ」
諸事情で、解析不能ではないものの解析の詳細を分析するための視界がないカインは、解析不能と同じようにしか世界が見えていない。普通の人間が見えている解析の細かい部分は、今はもう全く見えてないから、今ケテルが宙に浮いているのも「ただポツンと浮いている」ようにしか見えない。
仮にケテルが他の者たちに見えないように細工していれば他の者もカインと同じように見えている筈だ。
が、そこにおいてカインの弟アベルは、目が弱いせいか通常の人よりも繊細で鋭い感覚で解析を捉えているらしい。
この本殿にいる上級解析士たちよりもいい「目」を持っているというのは、他ならぬ本殿の主ケテルのお墨付きなので間違いないだろう。世辞を言うような可愛げのある性格じゃないなら余計だ。
「俺の届く範囲に、なんつーか、土台的なもんはある?」
流石に何の土台もなく浮いてはないだろうと適当に当たりをつけて問えば、アベルは中庭を指差した。
「浮くための土台なら、そこの中庭全体に敷かれてるよ。中庭に入ればどこでも『内部』だと思う」
「おーそっかそっか」
見えなくても解析は存在する。
カインはあまり詳しくないが、世界には物質(普通の視界で見られるもの)とは別の膜のような領域が物質と混じって重なり合うように存在してて、解析で使っている大事なものはそこに「ある」らしい。
結果として解析が物質に干渉してるのも、重なり合った部分から動かしてる、というものらしい。
物質と解析の領域は切り離せない「同一のもの」。
人間が脳内でどこまでも無限の思考ができるみたいな感じで、物質の中で解析の領域は存在してるんだという。
物質が脳そのものなら解析は思考の中身。
形はないけど、それを元にして現実へと意志を形にし物質すら変える。
と、まぁ。
この辺全部、ケテルからの受け売りなのでカインはざっくりとしか理解していない。
そもそも「ほぼ解析が使えないし見えない」カインは、今更解析をどう説明されてもいまいちわからないのだ。
わかるのは自分が可能な範囲だけ。
元々単体では触れも出来ないようなモノに対して、知るために必要な感覚すら無くしてしまえば、そんなものはもう無いも同じである。知識を与えられても実感が伴わないから、いまひとつ頭に残らない。そんなカインをケテルが馬鹿だと言うのもしょうがない話である。
が、そういうあれこれは、今は置いておいて。
「この辺? ある?」
弟の言葉に従い中庭に出たカインは、何もないように見える空間に適当に手を伸ばしてみる。
やっぱり何も触れることはない。庭とはいえ広いせいで、立ち止まった近くには木もないし花もないから、周りから見れば単に空気中に手を差し出してる怪しい男だ。まぁ別に今更自分が周囲にどう見られたって気にしないが。
それより今はあのアホをどうにかしないと。
「あるよ。そのへんいっぱい」
「よっしゃ」
頼もしい弟の保証を貰って、カインは拳を握った。
別にこれからすることで力を篭める必要は全くないのだが……こういうのは気分である。
すぅっと大きく息を飲み込んで、何もないように見える場所に思いっきり拳を振り切った。
それと同時。
「落ちろアホケテルーーーーーーーーーーーっ!」
カインの叫びが本殿中に響き渡った。