なんとかに凶器と権力 3
文字数 1,551文字
そのまま会話も出来たが、こんな廃墟では落ち着かないしセトも帰りを待っているので本殿へ戻った。
カインたちが今住んでいる本殿敷地内の区画、その出入り口でじっと立っていたセトはアベルを見るなり声もなく駆け寄ってしがみついた。
アベルはそのセトの金の髪を優しく撫で付け「ただいま」と笑う。
この弟たちの絆には、カインも入ることが難しい。
セトが用意してくれていた食事は当たり前に3人分だが、出来立てのそれは弟たちに先に食べさせることにしてカインはケテルの私室に連行される。というか、今からする話を弟たちには聞かせないためにあえて連行させた。
弟たちには先に食べてないと兄ちゃん後で泣くからな、と言い含めて。
「あいつらに変な話を聞かせんのもなぁ」
向かう道すがらぼやくと、ケテルに鼻で笑われる。
でもどんなに過保護だと笑われても、カインは記憶をなくした前後の話を弟たちに聞かせたくなかった。
特にアベルは、父親の暴行の現場に居合わせていたから。現場を見てはいないが、あの時の音は覚えているだろうし、その後引き離された経緯も含め出来れば当時を思い出すような話はしたくない。その辺りを詳しく知らないセトにも、そんな残酷な出来事は出来るだけ教えたくないと思う。
連れてこられたケテルの私室。
この部屋は何度か入ったこともある。主に寝坊したケテルを叩き起こしたりする為だが。
壁が厚い上に周囲の部屋は人が使う用途でないので、セフィラの私室は秘密話に向いている。
「てかお前の持ってるやつの話が主題だぞ? わかってっか?」
「当たり前だ。貴様のような空洞頭はしておらん」
いちいち気に障る言い方をしないと喋れないのかこのセフィラ様は。
そう思いつつ広い私室に入ってしまえば、勝手知ったる家具の配置ということで物入れと兼用の椅子の上に陣取った。
それより高そうな一人掛けの大椅子は空けているのだから問題ないだろう。そこに座るかと思われたケテルだが、椅子の方には向かわずに棚へと向かい、ずっと手に持っていた黒い何かをそこに置いた。
「貴様は解析ならばあらゆるものを崩壊させられる。それはアインのパスを使っているからだ。解析で抵抗するにはアインそのものかそれ以上のパスを用意しておかねばならぬが、セフィラですらアインの使用は難しい。だが、逆に解析の関わらん単なる物理には、貴様の使うものは干渉が及ばぬ」
それはカインも薄々気づいていた。
例えば解析を崩したって、その解析が覆っていた物質まで崩れるわけではない。カインが物質まで壊す場合、普通の人間同様に殴るなどの物理的手段を行使する必要がある。
解析自体は防げても、解析で壊され落ちた壁の破片が頭に当たるのは己自身で避ける必要がある、という話だ。
「……って、まさか」
「故の、これだ。解析がまだ今ほどは発展していなかった頃に原理が生み出された兵器。化学と物理によって破壊をする単純な殺傷兵器。解析一切未使用の銃だ。これが撃ち出す弾丸は解析の絡まぬただの物理攻撃だからな。貴様がいかに解析を壊していようが関係ない」
「……………………おーい。その殺傷兵器の銃、めっちゃ俺に向かって撃ってた気がするんですけども?」
前髪をかすった二発の何か。それによって焼け焦げたような状態にちぎれた前髪。
もし片方でも体に当たればどうなっていたか……考えたくもない。解析で生み出したわけでもなくあんな威力とかアリか。
思い出して身震いするカインに、ケテルは顔色一つ変えずに断言する。
「問題ない。照準自体は解析で完璧にしてあったからな」
「問題しかねえだろが!! やっぱてめーはアホだ!」
思わずケテルに向かって腰掛けていた椅子を放り投げていた自分は多分悪くない……と、後々になってもカインは思うのだった。
カインたちが今住んでいる本殿敷地内の区画、その出入り口でじっと立っていたセトはアベルを見るなり声もなく駆け寄ってしがみついた。
アベルはそのセトの金の髪を優しく撫で付け「ただいま」と笑う。
この弟たちの絆には、カインも入ることが難しい。
セトが用意してくれていた食事は当たり前に3人分だが、出来立てのそれは弟たちに先に食べさせることにしてカインはケテルの私室に連行される。というか、今からする話を弟たちには聞かせないためにあえて連行させた。
弟たちには先に食べてないと兄ちゃん後で泣くからな、と言い含めて。
「あいつらに変な話を聞かせんのもなぁ」
向かう道すがらぼやくと、ケテルに鼻で笑われる。
でもどんなに過保護だと笑われても、カインは記憶をなくした前後の話を弟たちに聞かせたくなかった。
特にアベルは、父親の暴行の現場に居合わせていたから。現場を見てはいないが、あの時の音は覚えているだろうし、その後引き離された経緯も含め出来れば当時を思い出すような話はしたくない。その辺りを詳しく知らないセトにも、そんな残酷な出来事は出来るだけ教えたくないと思う。
連れてこられたケテルの私室。
この部屋は何度か入ったこともある。主に寝坊したケテルを叩き起こしたりする為だが。
壁が厚い上に周囲の部屋は人が使う用途でないので、セフィラの私室は秘密話に向いている。
「てかお前の持ってるやつの話が主題だぞ? わかってっか?」
「当たり前だ。貴様のような空洞頭はしておらん」
いちいち気に障る言い方をしないと喋れないのかこのセフィラ様は。
そう思いつつ広い私室に入ってしまえば、勝手知ったる家具の配置ということで物入れと兼用の椅子の上に陣取った。
それより高そうな一人掛けの大椅子は空けているのだから問題ないだろう。そこに座るかと思われたケテルだが、椅子の方には向かわずに棚へと向かい、ずっと手に持っていた黒い何かをそこに置いた。
「貴様は解析ならばあらゆるものを崩壊させられる。それはアインのパスを使っているからだ。解析で抵抗するにはアインそのものかそれ以上のパスを用意しておかねばならぬが、セフィラですらアインの使用は難しい。だが、逆に解析の関わらん単なる物理には、貴様の使うものは干渉が及ばぬ」
それはカインも薄々気づいていた。
例えば解析を崩したって、その解析が覆っていた物質まで崩れるわけではない。カインが物質まで壊す場合、普通の人間同様に殴るなどの物理的手段を行使する必要がある。
解析自体は防げても、解析で壊され落ちた壁の破片が頭に当たるのは己自身で避ける必要がある、という話だ。
「……って、まさか」
「故の、これだ。解析がまだ今ほどは発展していなかった頃に原理が生み出された兵器。化学と物理によって破壊をする単純な殺傷兵器。解析一切未使用の銃だ。これが撃ち出す弾丸は解析の絡まぬただの物理攻撃だからな。貴様がいかに解析を壊していようが関係ない」
「……………………おーい。その殺傷兵器の銃、めっちゃ俺に向かって撃ってた気がするんですけども?」
前髪をかすった二発の何か。それによって焼け焦げたような状態にちぎれた前髪。
もし片方でも体に当たればどうなっていたか……考えたくもない。解析で生み出したわけでもなくあんな威力とかアリか。
思い出して身震いするカインに、ケテルは顔色一つ変えずに断言する。
「問題ない。照準自体は解析で完璧にしてあったからな」
「問題しかねえだろが!! やっぱてめーはアホだ!」
思わずケテルに向かって腰掛けていた椅子を放り投げていた自分は多分悪くない……と、後々になってもカインは思うのだった。