一番偉い奴は大体ヤバい法則 2
文字数 1,793文字
他人の喧嘩に口を挟むほど野暮になった覚えはない。
これがこの辺の住人同士だったならカインも止めてなかったが、明らかに外の恵まれたご身分の誰かさんに、集団でこの辺の不良が絡む様は見てて気持ち良いものじゃない。ただそれだけの理由でカインはとりあえず場に乱入すると、手を伸ばした。
不良の一人が振りかざした解析で生み出した長い刃を直に触れる。
本来なら鋭く肌や服を斬りつける系のものなのだろうが、カインに限って特に触感はない。
「おいカタギ様にご迷惑かけてんなよ〜」
「うるせ……げぇっ、消し屋じゃねーか!」
「はいはいそうですよー」
触れた瞬間跡形もなく消え去った刃に、それを出していた男がすぐにカインの別名を言い当てた。
あだ名というにはあまりに微妙なその名前は、カインの特殊性および仕事をそのまま言い表したものである。
見たことがある消し屋……カインの姿に他の不良たちも微妙な顔色に変わった。目の前の腹立たしい謎の男よりも明らかに厄介だとわかっているカインの姿に、それでも腹の中にある暴力的な感情を振りかざせるほどこの世界は甘くない。
引き際を誤ったら最後、己の命も失う場所。
そういう所で生きている不良だからこそ、利害関係や力関係には敏感だ。
外でぬくぬく過ごす平和な住人たちにはわからないのかもしれないが、意外にこの世界で「不毛な喧嘩」は行われない。
「これはオレらの喧嘩だ! 口出すんじゃねぇよ消し屋!」
「いやいやどう見たって喧嘩っていうよりただのカツアゲ……っ!?」
それでも一応体面を保つために、元気に文句を言ってくるリーダー格の少年に答えつつカインは黒髪の男の方を伺って、そのあまりの強すぎる視線に言葉を失った。
青い目。
この辺では珍しいその色。
だがそれよりもなお目を引くのは、その視線の強さだ。揺るぎない絶対の意志を持つ視線……こんな腐った街の隅ではまず遭うことないだろう、絶対的に「正しいもの」の威厳。この男は、こんな場所にいるのに、己が常に正しく強者であることに一切の疑問を持っていない。
少なくともこの目は、街の不良に絡まれた被害者ではない。
いや、それどころか。
「……おい、貴様」
視線だけで凶器となるならとっくに全身穴だらけになっているような幻覚さえ見せてくるくらいに強い視線を寄越してくる、自分とほぼ同じ年頃だろう黒髪のその男が、地獄の底から響くかのような唸り声の如き声を出した。
その声音に、背筋にぞわっと嫌なものがはしる。
ついさっき偉そうに響いていたものと全く違う何かがこもったソレは、周りを取り巻いている不良少年たちではなく、乱入したカインの方にだけ向けられていた。
とりあえず逃げたい、今すぐ。
はっきりと感じる、本能的な危機感。
思わず喉を鳴らして無意識に退路を確認したカインに、男は言葉を続ける。
「今のは、なんだ」
今の、とは刃を消したそれを指しているのだろう。
こういうことができる手前、そういう質問を受けること自体には慣れている。
慣れている筈なのだが……なんでもないこの質問で、なぜこうも心が遠慮なく警鐘を鳴らしてくるのだろう。一つ答えを間違えば命が消し飛ぶ、そういうタチの悪い(あるいはありえない)予感がヒシヒシと迫る。切れ味鋭い生の刃を首元に突きつけられているような感覚だ。
その焦燥のような謎の予感は必死で隠し、カインはヘラっと笑って見せた。
どうにか笑えた、と、思う。
「何ってそりゃ、見りゃわかるだろ? 解析……」
「ふざけるなっ!」
あ、間違えた。
この瞬間カインは本能で悟った。
多分、ここで言うべき答えを間違えた。
どうしようもなく悪い方に。
根拠はないがそんな気がする。そして人間、悪い予感はだいたい当たるものだ。
「このオレに解析を騙ろうとは……くっくっくっく……」
カインが感じている謎のヤバさは、どうやらカインと同じく不良的な生存本能のある周囲の奴らも感じたらしい。
特に示し合わせたわけでもなく本能だけで全員が微妙に謎の黒髪と距離をとった、その瞬間。
「その愚かな所業、身をもって償わせてやろう」
静かに響いたその声で、もう限界だった。
理由なんてもうどうでもいい。そんなことに囚われるほど彼らは上っ面で不良をしてない。
だから本能が知らせる恐怖に逆らわず、その場にいた不良は全員、カインも含めて全力でその場から逃げ出した。
これがこの辺の住人同士だったならカインも止めてなかったが、明らかに外の恵まれたご身分の誰かさんに、集団でこの辺の不良が絡む様は見てて気持ち良いものじゃない。ただそれだけの理由でカインはとりあえず場に乱入すると、手を伸ばした。
不良の一人が振りかざした解析で生み出した長い刃を直に触れる。
本来なら鋭く肌や服を斬りつける系のものなのだろうが、カインに限って特に触感はない。
「おいカタギ様にご迷惑かけてんなよ〜」
「うるせ……げぇっ、消し屋じゃねーか!」
「はいはいそうですよー」
触れた瞬間跡形もなく消え去った刃に、それを出していた男がすぐにカインの別名を言い当てた。
あだ名というにはあまりに微妙なその名前は、カインの特殊性および仕事をそのまま言い表したものである。
見たことがある消し屋……カインの姿に他の不良たちも微妙な顔色に変わった。目の前の腹立たしい謎の男よりも明らかに厄介だとわかっているカインの姿に、それでも腹の中にある暴力的な感情を振りかざせるほどこの世界は甘くない。
引き際を誤ったら最後、己の命も失う場所。
そういう所で生きている不良だからこそ、利害関係や力関係には敏感だ。
外でぬくぬく過ごす平和な住人たちにはわからないのかもしれないが、意外にこの世界で「不毛な喧嘩」は行われない。
「これはオレらの喧嘩だ! 口出すんじゃねぇよ消し屋!」
「いやいやどう見たって喧嘩っていうよりただのカツアゲ……っ!?」
それでも一応体面を保つために、元気に文句を言ってくるリーダー格の少年に答えつつカインは黒髪の男の方を伺って、そのあまりの強すぎる視線に言葉を失った。
青い目。
この辺では珍しいその色。
だがそれよりもなお目を引くのは、その視線の強さだ。揺るぎない絶対の意志を持つ視線……こんな腐った街の隅ではまず遭うことないだろう、絶対的に「正しいもの」の威厳。この男は、こんな場所にいるのに、己が常に正しく強者であることに一切の疑問を持っていない。
少なくともこの目は、街の不良に絡まれた被害者ではない。
いや、それどころか。
「……おい、貴様」
視線だけで凶器となるならとっくに全身穴だらけになっているような幻覚さえ見せてくるくらいに強い視線を寄越してくる、自分とほぼ同じ年頃だろう黒髪のその男が、地獄の底から響くかのような唸り声の如き声を出した。
その声音に、背筋にぞわっと嫌なものがはしる。
ついさっき偉そうに響いていたものと全く違う何かがこもったソレは、周りを取り巻いている不良少年たちではなく、乱入したカインの方にだけ向けられていた。
とりあえず逃げたい、今すぐ。
はっきりと感じる、本能的な危機感。
思わず喉を鳴らして無意識に退路を確認したカインに、男は言葉を続ける。
「今のは、なんだ」
今の、とは刃を消したそれを指しているのだろう。
こういうことができる手前、そういう質問を受けること自体には慣れている。
慣れている筈なのだが……なんでもないこの質問で、なぜこうも心が遠慮なく警鐘を鳴らしてくるのだろう。一つ答えを間違えば命が消し飛ぶ、そういうタチの悪い(あるいはありえない)予感がヒシヒシと迫る。切れ味鋭い生の刃を首元に突きつけられているような感覚だ。
その焦燥のような謎の予感は必死で隠し、カインはヘラっと笑って見せた。
どうにか笑えた、と、思う。
「何ってそりゃ、見りゃわかるだろ? 解析……」
「ふざけるなっ!」
あ、間違えた。
この瞬間カインは本能で悟った。
多分、ここで言うべき答えを間違えた。
どうしようもなく悪い方に。
根拠はないがそんな気がする。そして人間、悪い予感はだいたい当たるものだ。
「このオレに解析を騙ろうとは……くっくっくっく……」
カインが感じている謎のヤバさは、どうやらカインと同じく不良的な生存本能のある周囲の奴らも感じたらしい。
特に示し合わせたわけでもなく本能だけで全員が微妙に謎の黒髪と距離をとった、その瞬間。
「その愚かな所業、身をもって償わせてやろう」
静かに響いたその声で、もう限界だった。
理由なんてもうどうでもいい。そんなことに囚われるほど彼らは上っ面で不良をしてない。
だから本能が知らせる恐怖に逆らわず、その場にいた不良は全員、カインも含めて全力でその場から逃げ出した。