首都ロヒムの新たな日常

文字数 1,779文字

 おらあああ、とあまり意味のない掛け声とともに遠くから投げつけられた解析の塊がカインの体に触れた瞬間、水をかけられた炎のようにさっくりと消えた。振り返ったり相手を確認する必要もない。カインに少しでも触れる解析はどうやったって崩壊するのだから、それは当然の帰結だ。
 掛け声の主は悔しそうに何かを叫んでいたけれど、それを聞き届ける義理もないから歩みは止めない。
 なんかもう相手するのも面倒くさいので最近は好きにさせているが、どうしようもないという事を周囲にはそろそろ覚えて欲しいものである。

 ケテルの宣言以降。
 嬉々としてカインに喧嘩を売る一派が登場したのは言うまでもない。

 一派というか、本殿の半数を占めるケテル信奉過激派全員だ。

 なにしろセフィラのお墨付きである。
 白昼堂々、真正面から解析をぶっ放してくる奴から、背後から闇討ちのごとく撃ってくる奴、姿は見せる気がない奴まで、数えるのも嫌になるくらいに本殿付きの解析士たちがやってきた。一応ケテルの側にいるときやケテル関係の部屋などでは遠慮しているものの、一人になった途端に解析が投げつけられる。
 その全部、カインからすると何の害もないものなので問題ないが……少々鬱陶しい。
 とはいえ、一応全員あの宣言を理解してるのか、側に弟たちがいるときには間違っても何かしてくることはないのだから我慢するしかない状態。
 ごく稀にケテルが天井を割り落とした時のような攻撃が来ないこともないものの、全部ケテルほどの精度がない。カインの運動神経・反射神経もあり悉く不発に終わっていて、それを極めようなんて気まぐれな輩はまだ出てきていない。
 出来れば解析ではどうしようもないという事実を学習する者がそろそろ出てきてほしい、けれど。
「腰が痛いんじゃあああ!」
「頭痛がするんだけどムカつくーっ!!」
 不可能を学習する以前の問題で、誰にも怒られない八つ当たり方法としてこの行為の意味を学習しなさってる本殿の解析士たちは、やっぱりあのアホなセフィラの信者である。

 セフィラの仕事部屋の前。
 一人戻ってくるカインを見計らったかのように待ち構えていた二人が投げつけた解析がしゅぱっとカインに触れた途端に消えた。

 解析を投げられたのはまぁいい。
 そんなことより。
「それは俺に関係ないだろがっ!」
 せめて死ねとか消えろとか言われた方がまだ納得できるというもんである。
 頭痛と腰痛とか、いちゃもんにも程がある。何が悲しくて他人の健康問題的な恨みまで自分に降りかかるのか。これも全部あのアホの宣言のお陰だ。
 思わず怒鳴り返したけれど、相手は一切引く気はないようだった。
 びしっとこちらに指を突きつけて。
「わかんないだろストレス的なアレでソレが関係してやっぱお前が悪い的な!!」
 堂々と、そりゃもう理不尽な主張をなさっている。
 これが大人の言うことか。国でも信頼厚く、街の幼気なお子さんたち憧れの職である、本殿付き解析士のセリフとは思えない。
 なお腰痛主張な方は、本殿でもかなりお偉いさんである上位役職のお方だ。そろそろご老人手前の中年男性なので、腰が痛いなんて老化絡みのよくある話じゃないのか病院行けよ薬もらってこい、と本気で思う。
 その隣で頷いている己より年上のお姉さんも頭が痛いなら病院に行け。
 っていうかお前ら全員違う意味で病院で頭を見てもらうべきなんじゃないか、と言いたいのはぐっと堪えた。
「なんでもいいけど、そろそろケテル帰ってくんぞ」
「おっといかんいかん仕事に戻るか」
「やだーご挨拶したいけどこんな顔色じゃ会えなーい!」
「……はいはいお疲れさん……」
 面会に行ってる上司の戻り時間を示唆すると、そそくさと二人は立ち去った。
 さすがにあんな理由で襲ってたのでは堂々とケテルの出迎えも出来ないのだろう。その程度の後ろめたさはあるらしい。
 その顔は待ち構えていた時よりは多少すっきりしたようにも見える。だがこの分だと、天気だの気温だのを理由に襲われる日も近いんだろう、とカインはため息をつきながら部屋の中へと入った。とりあえずこのセフィラの部屋の中にまで解析を撃ってくるアホはまだ出てないので、入ってしまえば多少気が楽になるからだ。
 問題の部屋の主人が一番腹立たしいのは、この際、目を瞑ることにして。

 とりあえず。
 ロヒムは今日も平和である。
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