絶対者の的確な問題発言 1

文字数 1,486文字

 翌日の解析本殿。
 朝一でケテルから解析士全員召集という絶対命令が下った。

 それを、昨日の事件の関係者たちはきっと心臓の縮む思いで受けたに違いない。
 それでも病気などで朝から出勤できなかったものを除いて誰一人欠席がいなかったのは、かのセフィラの命に逆らうという選択肢そのものが彼らにも無かったからだろう。命令に逆らえないからこそ歪曲してカイン自身への、弟を利用した脅しに繋がった訳だし、その辺はカインもなんとなく理解できた。
 国家規模の行事などをする為の大広間に集められた解析士たちは、ケテルが登場する前、ざわざわと騒めいている。
 殆どの者は昨日の事件を知らないのだから、いつにないケテルの行動に動揺するのも無理はない。
 が、それもケテルが姿を見せた瞬間まで。

 最奥にある舞台状の広間の上に姿を見せたセフィラに、全員が一瞬で静まり返った。
 全身にきっちりとヤーフェの解析士に与えられる最上位の正装を身につけたいつになく改まった姿に、舞台脇で見てるカインですら緊張する。

 広間の真ん中にある講壇の上に立つと、ケテルはいつもの偉そうな表情のまま話しだす。
「今日、貴様らを集めたのは、一つだけはっきりさせておきたいことがあったからだ」
 ん? とカインは首を傾げる。
 昨日の今日なので、アベルの誘拐絡みの話だろうと思っていたのだが、この出だしからアレをどう話すのかわからない。まぁ頭のいい人の思考など自分に追えるつもりもないから、予想もせずそのまま言葉の続きを待つ。
「オレは、弱いものを虐げる輩が一番好かん」
 しん、と静まり返った大広間に、おそらく解析でだろう拡声されたケテルの言葉が響きわたる。隅々まで、それこそ端の壁に反響するくらいの大きさでそれは届けられたから、おそらくこの場所にいて聞こえないものなどいなかっただろう。
 皆が息を呑んでそれを受け止めている中、カインだけはちょっと疑問を感じていた。
 え、お前がソレ言うの? という意味で。
 だって普段から自分は、散々このセフィラ様に虐げられてるような気がする。それともアレはノーカンとでも言う気か。
「己より明らかに強いものに挑む輩は、馬鹿だとは思うが嫌いではない。が、己より弱いとわかっている相手を敢えて標的にし甚振るような心根は、正直反吐が出る」
 だが、と続けた。
「改めてこれを伝えたのは今が初めてだからな。過去に関しては一切問うまい。しかして、貴様ら全員、今ここでオレの言葉を聞いた事実は無かったことにさせぬ。今後、今この時から、万が一にも他者にそんな行為をしようものなら……このオレ直々に処分を下してくれよう。心当たりのあるものも無いものも、心して受け止めよ」
 ざわめきすら起きない。
 心当たりの有る無しに関係なく、大広間で話を聞いている全員が、声もなく受け止めている。
 この国の頂点にある存在の言葉を。
「建物の隅だろうが庭の端だろうが、このオレの目を逃れられると思うな。不満があるなら、この国を出て行け。止めはせん」
 一般市民ならまだしも、解析本殿に勤める解析士で、そんな度胸と覚悟がある者などいないだろう。

 言っていることは立派な気がする。
 それなのに妙に、よくわからないが何かが引っかかる気がするのは、カインだけだろうか。珍しくまともなことを言ってるのは確かだが、このお偉いさんがそれだけで終わるとは思えない。いやいや、それだけの性格じゃないだろお前、と思っていたら、壇上のケテルがちらっとカインの方を見た。
 その青い目が妙に楽しそうに見えて、すっとカインの背筋に悪寒が走る。

 あの目は、何か企んでる時のソレだ。
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