なんとかに凶器と権力 1

文字数 1,274文字

 事務課もといケテル信奉過激派集団がいなくなった後、カインは真っ直ぐ弟の無事を確認しに行った。
 さっさと逃げた彼らには置いていかれたが、目が悪いから下手にその場を動いては危険だと理解しているアベルはじっと大人しく立っていて、近づいたカインの足音にホッとした顔を向けてきた。
 他の誰かはともかく、カインの気配ならアベルはとても詳しい。
 そんな弟に優しく声をかける。
「怪我はねーか?」
「僕は大丈夫。兄ちゃんの方こそ……さっき、すごい音してたけど」
「あー、あれな、うん、怪我はない」
 年頃の少女じゃあるまいし、前髪の一部が焦げた程度でどうこう言うつもりはない。
 いやどうこう言うべき相手は他にいて、弟に当たるような話じゃないと言うべきか。この時ばかりはアベルの目が悪くてよかった。これがセトなら、見えてるものを誤魔化すのは難しかっただろう。
 見た感じアベルに怪我がない事を確認し、その顔と服についていた埃をそっと落としてやる。
 カインの手にアベルは大人しくされるがままでいた。

 そんな兄弟のそば、たすっ、と近くで軽い落下音がする。
 振り返って確認するまでもない。
「どっから居たんだよテメェは」
「貴様がオレをアホだと言ったあたりだ」
「……殆ど最初の方じゃねーか」
 そちらを見もせずに話しかけたら普段通りの様子で返事がきたから、内容はともかく妙にほっとしてしまった。
 この男の性格から考えたら、むしろよくそこで登場しなかったものだ。普段通りの傍若無人に見えて、これでも空気を読んでいたのだろうか。

 状況的にはとっとと飛び出てもらってた方が話が早かったから、その判断は微妙なところだが。

 音の方を見れば、いつも通り偉そうに立っているケテルがいる。
 何故ここにいるのかを問うのは無駄だろう……事件は本殿で発生しているのだから。

 このセフィラは素知らぬ顔で過ごしているだけで、本殿の中で発生した事はほぼ全て把握している。
 その外の街中ならまだしも、本殿の中ではつまみ食い一つであってもケテルの目をかいくぐるのは困難だ。
 カインは普段のケテルの言動からそれを知っているが、暢気にこんな事件を起こしてくださった事務課の方々はそれをご存知なかったらしい。つまり能天気に本殿内で事を起こしてる時点で、セトへの口止めなど無意味だったのだ。
 当人が積極的に周囲に触れ回ってないのだから仕方ないとはいえ、事務課の信者たちはちょっとセフィラという存在を甘く見過ぎではないかと思う。

 まぁ、そんなことはどうでもいい。
「で、ご解説は頂けるんですかねぇ?」
 さっきの謎の攻撃(?)に関して。
「気になるか」
「そりゃ思っ切りこっちに害が及ぶ感じな時点で気になるだろ」
 解析の全てを崩壊させる状態の今の自分に攻撃的な「何か」をした原因だ。気にするなと言われても無理だろう。
 ケテルに話す気があるならば、聞かない理由はない。
 というか今後の自己防衛的な問題の為にも、理解できるかは別にして何をされたかくらいは聞いておかないとと思いつつ、足場の悪い時計台の中でも弟が困らないよう、その手を繋いだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み