過激派はだいたい話を聞かない 3
文字数 1,299文字
街外れの"壊れた時計台"は、ロヒムでは有名な廃墟だ。
それこそ本殿勤めのエリートさんですら知っているような場所なので、逆に街の不良たちはあまり使わない場所である。
悪さをするには場所が有名すぎるので、何か異変があったらすぐに警備の兵士が飛んでくる。そこまで悪じゃない一般人の皆さんが、ちょっと悪ぶって馬鹿騒ぎに利用するコトだって少なくない。だから本格的な悪さに使用するには、雰囲気は別にして、効率的に考えたらワリに合わないのだ。
不良や悪人たちは、もっと一般人に知られてない人目につかない場所を使う。
悪行の多くは、目撃者がいない方が良いのだから。
だから行き先でそんな所を指定してくる時点で、相手が本物の悪人ではないだろうというのは予想に容易い。
むしろ、本物でないから面倒臭いかも知れないとカインは現地に到着してから思った。
もう夜だが、割れた窓や壁の隙間から入り込む月明かりで、廃墟内でも視界はそこそこ良好だ。
明らかに見えている相手に対し、カインは話しかける。
「あー、あのさ」
「よく来たな半端者が!」
「いや、よぅ、その」
「来たからには取引に応じてもらおう!」
「お前ら、まさかそれで」
「でなければ貴様の弟の命はないと」
「話を聞けやあああああ! ケテルといいてめーらといい解析士のお偉いさんはどいつもこいつもアホなんか!?」
思わずげしっと足元の瓦礫の一個を蹴り飛ばしつつカインは叫ぶ。
時計台に着く前から解析は全部壊す勢いで乗り込んだ。
ある程度カインのことを知る向こうだってソレは予測済みだろう、解析の罠的なものは無かった。そして時計台の中にあるちょっとした広間の奥で、それ以上近づいたらタダじゃ済まさぬと言わんばかりに弟の首元に光る刃物を突きつけて出迎えてくれていた。
カインがいる唯一の出入り口から、弟のいる場所まではそれなりの距離がある。
ただ解析を壊せるだけのカインがどうこうするには難しいその距離で、こっちの決断を迫るやり方は常套かつ常道で、ついでに脅し文句一つとってもかわり映えのないありきたりな内容だ。この程度、ここに来るまでに予測済みである。
問題はそこじゃない。
「兄ちゃん」
「お前は黙ってろアベル。全部兄ちゃんがどうにかしてやるから」
この場で最も今のカインの気持ちを理解してるだろうアベルが、困ったように声をかけてくる。その声で一瞬冷静さを取り戻しカインはどうにか返事をしたが。
「弟が可愛くば今すぐ本殿から去ると約束しろ!」
会話する兄弟をどう思ったか、苛立たしげに言葉を挟んでくる相手に、カインの冷静さはあっさり吹き飛んだ。
もう知らんと思いつつ怒鳴る。
「うるせぇてめーらこそ後でケテルに怒られたくなきゃ今すぐアベルを離せ人事管理部事務課どもが!」
「な、なぜそれをっ」
「その程度の変装でバレないと本気で思ってたんかい!」
信じられない、といった様子でざわめくアベルの周囲の数名に、カインはもう一個ツッコミがわりに瓦礫を蹴り飛ばした。
黒塗りメガネ一つで完璧な変装が成立すると本気で思っていたとは、やはりエリート様の思考は暢気がすぎるし理解不能だ。
それこそ本殿勤めのエリートさんですら知っているような場所なので、逆に街の不良たちはあまり使わない場所である。
悪さをするには場所が有名すぎるので、何か異変があったらすぐに警備の兵士が飛んでくる。そこまで悪じゃない一般人の皆さんが、ちょっと悪ぶって馬鹿騒ぎに利用するコトだって少なくない。だから本格的な悪さに使用するには、雰囲気は別にして、効率的に考えたらワリに合わないのだ。
不良や悪人たちは、もっと一般人に知られてない人目につかない場所を使う。
悪行の多くは、目撃者がいない方が良いのだから。
だから行き先でそんな所を指定してくる時点で、相手が本物の悪人ではないだろうというのは予想に容易い。
むしろ、本物でないから面倒臭いかも知れないとカインは現地に到着してから思った。
もう夜だが、割れた窓や壁の隙間から入り込む月明かりで、廃墟内でも視界はそこそこ良好だ。
明らかに見えている相手に対し、カインは話しかける。
「あー、あのさ」
「よく来たな半端者が!」
「いや、よぅ、その」
「来たからには取引に応じてもらおう!」
「お前ら、まさかそれで」
「でなければ貴様の弟の命はないと」
「話を聞けやあああああ! ケテルといいてめーらといい解析士のお偉いさんはどいつもこいつもアホなんか!?」
思わずげしっと足元の瓦礫の一個を蹴り飛ばしつつカインは叫ぶ。
時計台に着く前から解析は全部壊す勢いで乗り込んだ。
ある程度カインのことを知る向こうだってソレは予測済みだろう、解析の罠的なものは無かった。そして時計台の中にあるちょっとした広間の奥で、それ以上近づいたらタダじゃ済まさぬと言わんばかりに弟の首元に光る刃物を突きつけて出迎えてくれていた。
カインがいる唯一の出入り口から、弟のいる場所まではそれなりの距離がある。
ただ解析を壊せるだけのカインがどうこうするには難しいその距離で、こっちの決断を迫るやり方は常套かつ常道で、ついでに脅し文句一つとってもかわり映えのないありきたりな内容だ。この程度、ここに来るまでに予測済みである。
問題はそこじゃない。
「兄ちゃん」
「お前は黙ってろアベル。全部兄ちゃんがどうにかしてやるから」
この場で最も今のカインの気持ちを理解してるだろうアベルが、困ったように声をかけてくる。その声で一瞬冷静さを取り戻しカインはどうにか返事をしたが。
「弟が可愛くば今すぐ本殿から去ると約束しろ!」
会話する兄弟をどう思ったか、苛立たしげに言葉を挟んでくる相手に、カインの冷静さはあっさり吹き飛んだ。
もう知らんと思いつつ怒鳴る。
「うるせぇてめーらこそ後でケテルに怒られたくなきゃ今すぐアベルを離せ人事管理部事務課どもが!」
「な、なぜそれをっ」
「その程度の変装でバレないと本気で思ってたんかい!」
信じられない、といった様子でざわめくアベルの周囲の数名に、カインはもう一個ツッコミがわりに瓦礫を蹴り飛ばした。
黒塗りメガネ一つで完璧な変装が成立すると本気で思っていたとは、やはりエリート様の思考は暢気がすぎるし理解不能だ。