「お見かけしませんでしたね。」
文字数 1,104文字
それ以降、彼はお昼休みに構内の廊下や階段に表れるようになった。
私はお昼休みに彼とすれ違い、挨拶を交わすのが日課になった。
「こんにちは。」と声に出してすれ違うこともあれば、軽く会釈だけする日もある。
時には視線だけを交わして、言葉を発さずにすれ違うこともあった。
本当にそれだけ。
ただの挨拶。それ以上の盛り上がりもない。
私はもう少し彼の声を聞きたいと思ったけれど…。
あのチャット以来、彼と交流する機会がなかった。
次の週のある日、彼とすれ違わなかった。
その日は何事もなく過ごしていたが、15時を過ぎた頃、急に我慢できなくなり、彼にメールを送った。
「今日はお見かけしませんでしたね。」
すると、彼からすぐに返事が返ってきた。
「今日はそちらの棟に行かなかったので、お見掛けしませんでしたね。」
(返事が来た…)
「え!?」
思わず声を上げてしまった。
気を取り直して、ずっと気になっていたことを彼に尋ねてみることにした。
今なら答えてくれるかもしれないと思ったのだ。
むしろ、今しかないとさえ感じた。
「ずっと気になっていたのですが、~さんは異動後、どのような業務をされているのですか?」
返事は来なかった。
(踏み込みすぎたかな…)
私は席を立とうとした。そのとき、彼専用のメール受信フォルダ「フォルダ5」の数字が1になっているのに気付いた。
(返事が来てる!)
さっそくメールを開いた。
「オンラインデータ通信に対応した装置と上位のシステムの通信を行う部分のプログラム開発や現場からの問い合わせ対応などを行っています。」
(どうしよう!聞いたのは私なのに、全然分からない!)
私は分からないなりに彼の仕事を理解しようと努力した。
(…でも、内容を理解した返事を書くには、しばらく時間がかかりそうだな…)
彼はなるべく一般的な言葉で教えてくれたのだろうか。
それでも、私は何よりも彼が業務内容を教えてくれたこと自体に驚き、感動していた。
実体の彼が、文字の彼を通じて、業務以外で私とコンタクトを取ろうとしている!
もちろん、プロフェッショナルな範囲内でだが…私は嬉しくて仕方がない。
彼が心を開いてくれたような気がしたのだ。
私はさっそく感謝のメールを書こうとした。
ところが、彼の返信には続きがあることに気付いた。
「エレベーター前で会ったときは、装置を担当している~課の~課長補佐と合流する途中でした。」
それは、私の所属する部署の人の名前だった。
私とは別のセクションなので、直接的な関連はない。
なぜ一般的な内容の中に、具体的な話を入れたのだろうか?
彼の返信に舞い上がっていた私だったが、少し違和感を覚えた。
私はお昼休みに彼とすれ違い、挨拶を交わすのが日課になった。
「こんにちは。」と声に出してすれ違うこともあれば、軽く会釈だけする日もある。
時には視線だけを交わして、言葉を発さずにすれ違うこともあった。
本当にそれだけ。
ただの挨拶。それ以上の盛り上がりもない。
私はもう少し彼の声を聞きたいと思ったけれど…。
あのチャット以来、彼と交流する機会がなかった。
次の週のある日、彼とすれ違わなかった。
その日は何事もなく過ごしていたが、15時を過ぎた頃、急に我慢できなくなり、彼にメールを送った。
「今日はお見かけしませんでしたね。」
すると、彼からすぐに返事が返ってきた。
「今日はそちらの棟に行かなかったので、お見掛けしませんでしたね。」
(返事が来た…)
「え!?」
思わず声を上げてしまった。
気を取り直して、ずっと気になっていたことを彼に尋ねてみることにした。
今なら答えてくれるかもしれないと思ったのだ。
むしろ、今しかないとさえ感じた。
「ずっと気になっていたのですが、~さんは異動後、どのような業務をされているのですか?」
返事は来なかった。
(踏み込みすぎたかな…)
私は席を立とうとした。そのとき、彼専用のメール受信フォルダ「フォルダ5」の数字が1になっているのに気付いた。
(返事が来てる!)
さっそくメールを開いた。
「オンラインデータ通信に対応した装置と上位のシステムの通信を行う部分のプログラム開発や現場からの問い合わせ対応などを行っています。」
(どうしよう!聞いたのは私なのに、全然分からない!)
私は分からないなりに彼の仕事を理解しようと努力した。
(…でも、内容を理解した返事を書くには、しばらく時間がかかりそうだな…)
彼はなるべく一般的な言葉で教えてくれたのだろうか。
それでも、私は何よりも彼が業務内容を教えてくれたこと自体に驚き、感動していた。
実体の彼が、文字の彼を通じて、業務以外で私とコンタクトを取ろうとしている!
もちろん、プロフェッショナルな範囲内でだが…私は嬉しくて仕方がない。
彼が心を開いてくれたような気がしたのだ。
私はさっそく感謝のメールを書こうとした。
ところが、彼の返信には続きがあることに気付いた。
「エレベーター前で会ったときは、装置を担当している~課の~課長補佐と合流する途中でした。」
それは、私の所属する部署の人の名前だった。
私とは別のセクションなので、直接的な関連はない。
なぜ一般的な内容の中に、具体的な話を入れたのだろうか?
彼の返信に舞い上がっていた私だったが、少し違和感を覚えた。