進捗会議と『名無し』のシステム部 (1) Rev2

文字数 1,546文字

私はその日、同じ部署の別の課である開発課の進捗会議を聴講していた。

実は私は分析課から開発課への異動を志願している。
それは分析課の業務分掌ではどうしても仕事の範囲に限界が来てしまい、(この課では分析業務の範囲を超える仕事は禁じられている)
しかし現実的にはそれ以上の権限がないと仕事をうまく進められなくなっている状況が続いたからだ。

人手が足りないなら自分がやるしかない。

私はこれから困難な道に入っていくとは覚悟はしているけど楽しみでもあったし、少し怖かった。
開発課はどのグループも人手不足で歓迎はしているものの、受け入れ先はまだ決まっていなかった。
私の希望は今までの経験が生かせる電子顕微鏡の担当ではあるが、それだけでなく他の装置も担当した方がいいのではないかと少し揺れてもいた。
というのも表面解析グループでは一人数台の装置をかけもちするのが普通であり、私自体も2年前まではもう一台かけもちしていたのだ。

課長からは「まずは週報と課月報を一年がかりで見てきなさい」と言われて定期的にこちらのオフィスに来ていた。
この話は例の『本当にイケメンなのに自称イケメンの先輩』にも、ながらく相談しており「だらだらしてないで早く異動してきなさい、こっちで(先輩も開発課と同じサイト)待ってるんだから」と温かいご支援の言葉をいただいていた。
何度も言うが、クズなのに優しい先輩である。

開発課は分析課とはサイトが異なるが車で5km、渋滞がなければ20分ほどの場所で移動するのは忙しいけどそこまでの負担ではなかった。

今日は6月度の課月報だ。

私は緊張感が包まれたその部屋に入っていった。
開発課はさらに4つのグループに分かれており、私は同じく電子顕微鏡を扱っている表面解析グループの発表を楽しみにしていた。

課月報は月ごとに各グループの発表順が変わる。

(今回は工場支援グループからか…)
(あんまり興味ないかな。)

工場支援グループは工場内にある検査工程の全ての装置を導入、立ち上げ、管理するグループで開発まで行っているという。
全員の顔が一度に揃わないことでも有名な激務部隊だ。

(工場支援の開発って何だろう。)
(ひとりで20台以上も担当しているってどういう状況なんだろう…)

私は絶句して彼らの発表を見ていた。
発表をするためだけに現場を抜けてきた人が多くいる。
10分話したら次々と部屋から出ていく。

(課月報なのに、情報の共有が出来ないのね…)

会議前半の最後に発表した担当者さんは私も昔からよく知っている。
毒舌だけど気の良いおじさんだ。(私には)

(担当者さんも電子顕微鏡の担当だったはずだけど…チーム変更になった?)

担当者さんの進捗を聞く。

新しい検査装置の導入をしようとしているが苦戦していて導入時期がさらに後ろにずれ込みそうだという報告だ。

(あれ…?)

担当者さんが新しく導入しようとしている装置は社内システムの仕様に合わないソフトウェアをメーカー側が製作してしまい、このままではオンライン(工場のシステムに繋いで、実際の製造ラインで使用すること、繋がない物はオフライン装置という)には出来ないらしい。

「…というわけで、時間短縮のためシステム部担当者も同席で次回メーカーとの会議を予定しています。」

───────────────────
「エレベーター前で会ったときは、装置を担当している~課の~課長補佐と合流する途中でした。」
(参照:「お見かけしませんでしたね。」、彼の意図)
───────────────────

彼のメールの文字がよみがえる。

(そういえば、担当者さんと合流するって書いてあった。)
(もしかして、この『システム部』は彼のチーム?)
(もしくは彼本人…??)

私は会議前半終了後の小休憩に、思わず担当者さんの元へ駆け寄った。
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登場人物紹介

私:30代後半の女性

昔は綺麗だった。見た感じさほど変わりはないが、今は自分の加齢に悩んでいる。

年上が好みだったが、これから好きになるある男性は年が下かもしれないので落ち着かない。

実体の彼:年令不詳だがおそらく私より年下

優しい、誠実な仕事ぶりの中途入社社員。

こちらから話しかけない限り、ほとんど話さない静かな性格。

私は彼がどの程度年下なのかが分からず落ち着かない。

あるきっかけで私と長い期間社内メールでのみ個人宛てでやりとりをする関係になる。

その後再会した彼は、今まで私が知る彼とは言動、行動が違っていて私は受け入れられず混乱している。

理想の彼:理想化した彼

実体の彼に出来ないことは全てしてくれるが私はだんだん違和感と不安が膨れ上がっていく。

思い出の彼:私の思い出の中にいる彼。

数種類のエピソードを持っており、時が経つごとに輝きが増す。

誰にも共有することが出来ず、なんなら実体の彼すら忘れているエピソードもある。

文字の彼:私と一番長く過ごしてきた彼。

私は再会するまで彼の顔は思い出せず、『文字の彼』として受け入れていた。

私のトラブルをいつも気にかけ、いつでもすぐにメールで助けてくれる安心感のある彼。

彼のただ一つの謎はこんなに優しいのに『感情』が入った文章には一切反応をしないこと。

自称イケメン(ただし本当にイケメンです。)の先輩。

自分に自信があり、仕事も顔も自分が一番だと思っている。

ただ、既婚者なのに女の子をひっかけているところはクズである。

私にはないものばかりで、『ある意味』あこがれの先輩。

『彼』への想いの相談相手になってもらったが…

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